深夜コンビニに現れる奇妙な男――おおいさんと三つの針金細工

○コンビニ・休憩室（夜）

N：バイトを始めて三ヶ月が経つ頃、俺の働くコンビニには妙な噂があった。

○同・店内（夜）

（制服姿の主人公・斎藤（20・新米バイト）、レジに立つ。
先輩・佐野（28・無口）と並ぶ）

佐野：（小声で、真剣な目つき）
「おおいさんが来たら、目を合わせるなよ」

斎藤：（きょとんとして）
「…おおいさん、ですか？」

佐野：（目を伏せて）
「とにかく、覚えとけ」

N：（心の声）
俺は仕事を覚えるのに必死で、その忠告はすぐに頭から消えていった――

（画面暗転）

○コンビニ・バックヤード（夜）

N：三ヶ月後、新人の後輩・村田（18・気弱）が入ってきた。

（弁当を食べる斎藤と村田）

村田：（笑顔で）
「斎藤さん、夜勤って意外と楽ですね」

斎藤：（微笑みながら）
「人数増えると、助かるよな」

（SE：モニターの切り替え音）

（斎藤、防犯カメラのモニターを見る）

○同・売り場（夜）

（中学生くらいの少年３人が立ち読みしている）

（別のカメラ：村田がレジ前で緊張した面持ちで様子を伺う）

斎藤：（心の声）
「万引き防止で見張ってるのか…」

○コンビニ・バックヤード（続き）

（斎藤、弁当を食べ終えカメラを操作）

（モニターに村田が誰もいないレジでペコペコ頭を下げている姿）

斎藤：（首を傾げて）
「何してんだ、あいつ…」

（SE：控室呼び出しボタンのブザー）

斎藤：（立ち上がり、慌てて店内へ）

○同・レジ前（夜）

（見知らぬ中年男・おおいさん（50代・無邪気な雰囲気）が立っている）

おおいさん：（明るく、奇妙な声色で）
「こんにちはー、おおいさんです」

斎藤：（心の声・戸惑い）
「…何言ってんだ、こいつ」

（村田がこっそり斎藤の耳元で囁く）

村田：（震える声で）
「出ました…おおいさん。
店長が言ってた人です、目を合わせちゃダメって」

斎藤：（はっとして、視線を逸らす）

（おおいさん、嬉しそうに商品を指定する）

おおいさん：
「えっとねー、まいるどせぶんとー、あとー、このがむとー、からあげちょうだい」

（斎藤、棚から商品を取りレジ袋に入れる。
村田は硬い表情でレジを打つ）

おおいさん：（冗談めかして）
「あとねー、どっちかのいのちちょーうだーい」

（斎藤、苦笑いしながら）

斎藤：（作り笑いで、頭を下げる）
「申し訳ございません。
当店では取り扱っておりません…」

（おおいさん、本棚の方に顔を向ける）

おおいさん：（楽しそうに）
「あそこのさんにんのうちのひとりでいいよー。
いのちちょうーだーい」

（立ち読み中の三人の少年は雑誌に夢中）

（斎藤と村田、顔を見合わせ、大げさに下手に出る）

斎藤：
「申し訳ございません、彼らは商品ではありませんので…」

（おおいさん、笑いながら小銭と奇妙な針金細工３つをカウンターに置く）

おおいさん：
「ははは、じゃ、ぜんぶもーらーおっと」

（おおいさん、去る）

（SE：ドアの鈴）

○コンビニ・バックヤード（翌日・昼）

（斎藤、店長・宮田（45・落ち着いた口調）に針金細工のことを報告）

宮田：（真剣な表情で）
「なんてことを…。
おおいさん、何か置いてった？」

（斎藤、針金細工を見せる）

宮田：（静かに頷き）
「次に来たら返してあげて。
分かりやすいところに置いとこう」

○コンビニ・バックヤード（翌日の夜）

（村田、涙目で控室から飛び出す）

村田：（声を震わせて）
「斎藤さん…あれ、針金細工が…動いてます…！」

斎藤：（苦笑しつつも不安を隠せず）
「嘘だろ…？」

（控室へ向かう二人。
拾得物の箱の中で、３つの針金細工がミミズのように這い動く）

（SE：不穏なざわめき）（BGM：不気味な旋律）

（数日間、その現象が続き、夜勤の仲間たちも気味悪がる）

○コンビニ・バックヤード（数日後・夜）

（針金細工のうち１本が弱々しく痙攣している）

○斎藤の自宅・リビング（翌朝）

（ニュースが流れる）

TVアナウンサー（声）：
「昨夜、近くの交差点で中学生がバイク事故で死亡しました。
」

N：その日、三人のうちのひとりが亡くなったというニュースが流れた。

○コンビニ・バックヤード（さらに翌日・夜）

（佐野と宮田が夜勤）

（おおいさん、再び来店）

宮田：（小声で）
「佐野、針金細工を返してきてくれ」

佐野：（頷き、防犯カメラの画面を見る）

（カメラの映像：レジ前に首のない少年の遺体が横たわり、手で床を探るように動かしている。
おおいさんの手には、少年の首らしきものがぶら下がっている）

（凍りつく佐野）

○同・レジ前（直後）

（佐野、恐る恐る戻るが、遺体は消えている）

○コンビニ・バックヤード（後日）

（斎藤と村田）

斎藤：（遠くを見つめて）
「おおいさん…他の店でも噂、聞いたことないな」

村田：（そっと首を振る）

N：どこかのコンビニにも、似たような話があるのかもしれない――

（BGM：静かにフェードアウト）