■【起】〜静寂を破る不穏な訪問者〜
───────
昔、田舎のコンビニでバイトしていた頃のことだ。
その店は深夜になるほどお客が減り、僕と先輩はバックルームで漫画や雑誌を読みながら、のんびりと時間を潰していた。
仕事らしい仕事といえば、時々監視モニターを確認する程度。
静かな夜が続く日常だった。
そんなある晩、お菓子を食べながら先輩と他愛もない会話をしていると、ふとモニターの本棚の映像に、腰まである長い黒髪の女が立っているのを発見した。
―「おかしいな、チャイム鳴らなかったぞ」
先輩が首を傾げるが、たまにドアチャイムが鳴らないこともある。
僕たちは気にせず会話を続けていた。
■【承】〜奇妙な静止と消えた人影〜
───────
しかし、その女は動かず、本を手に取るわけでもなく、ただ本棚をじっと見つめていた。
―「おい、こいつ万引きするつもりじゃないか」
どこか不気味な雰囲気を漂わせる女。
僕も無言で頷き、二人で本棚を挟み撃ちにしようとバックルームを出た。
先輩はレジ側から、僕はバックルームの出入り口から、本棚を目指して進む。
しかし、そこには誰もいなかった。
絶対に挟み撃ちにできたはずなのに、姿が消えている。
トイレから水を流す音が聞こえたため、「トイレに行ったのか」と先輩は言い、僕たちは再びバックルームに戻った。
だが、モニターを確認すると、さっきと全く変わらぬ場所で女が本棚を見つめている。
トイレから戻るよりも、僕たちのほうが早かったはずなのに……異常な状況に、背筋が冷たくなった。
もしかしてモニターが過去の映像を映しているのかと疑いながら、再び挟み撃ちを試みるものの、やはり誰もいない。
冷や汗をかきながら、無言でバックルームへ戻った。
モニターを見た先輩が声を上げる。
―「あ! いなくなってるぞ」
女の姿は消えていた。
だが、安堵も束の間、空気がさらに重く感じられた。
■【転】〜モニターに映る戦慄の笑顔〜
───────
モニターをもう一度見ようと先輩の横に顔を寄せた時、先輩が低い声でささやいた。
―「待て、動くな」
反射的に「は?」と返すと、先輩は中腰のまま目だけを動かし、僕と視線を合わせている。
その顔色は真っ青だ。
―「いいか、絶対に振り向くなよ。
いま」
先輩の押し殺した声が、緊張感をさらに高める。
なぜだろうとモニターを見つめ直すと、画面の反射に自分と先輩の顔、そしてその真ん中に…もう一つ、女の顔が映り込んでいた。
悲鳴を堪えて硬直する僕。
数分間、女が何かを呟き、すっと離れる気配を感じながら、ただ耐えていた。
やがて先輩が「もういいぞ」と言い、僕は初めて息をつくことができた。
おそるおそる振り返ると、そこには何もいなかった。
ただ、心臓の鼓動だけが耳に響いていた。
■【結】〜消えぬ恐怖と静寂の余韻〜
───────
脱力しながら「ここって、なんか出るんかなぁ」と先輩が呟き、僕も思わず「そうですね」と同意する。
だが、先輩が突然モニターに張り付いた。
その視線をたどると、モニターにはさっきの女がカメラの方を向き、大きく口を開けてニタァ〜っと不気味な笑みを浮かべている姿が映っていた。
その瞬間、僕と先輩は一言も発さずに裏口から飛び出し、夜明けまで戻ることはなかった。
トラックが来る頃、ようやく店に戻ると、そこには誰もいなかった。
あの出来事は今でも信じられない。
ただ一度きりの、忘れられない恐怖体験だった。
仕事・学校の話:深夜の田舎コンビニに現れる影──監視モニターに映る恐怖の微笑み
深夜の田舎コンビニに現れる影──監視モニターに映る恐怖の微笑み
📊 起承転結 に変換して表示中
読了
スワイプして関連記事へ
0%
記事要約(300文字)
ダミー1にテキストを変換しています...
0%
変換中
コメント