○A家・リビング(深夜)
SE:壁掛け時計の針が進む音。
N:A課長(40代・穏やかな表情だが、どこか影がある)は、疲れた顔でソファに座っている。
隣には妻・美咲(30代後半・痩せた体、目に涙の跡)。
A課長:(静かに、目を伏せて)
「…子供の写真、片付けた方がいいのかな」
美咲:(苛立った声で)
「何言ってるの?…そんなこと、できるわけないじゃない」
(間)
N:二人の間に重たい沈黙が流れる。
壁には亡くなった息子・悠斗(享年5歳)の笑顔の写真。
SE:美咲がテーブルのグラスを乱暴に動かす音。
A課長:(声を震わせて)
「…ごめん」
美咲:(顔を背けて、涙をこらえて)
「全部…私のせいだと思ってるでしょ」
A課長:(首を振る)(美咲に近づくが、手を伸ばせずに止まる)
N:二人の距離は、近いようで遠い。
○回想・病室(夕方)
SE:心電図の微かな音。
悠斗(5歳・明るい表情)(ベッドで小さく手を振る)
悠斗:
「パパ、退院したらディズニー行こうね!」
A課長:(笑顔を作るが、どこか不安げに)
「ああ、もちろんだよ。
絶対行こうな」
(カメラ、ゆっくりズームイン。
悠斗の無邪気な笑顔が映る)
N:それから数日後、悠斗は突然この世を去った。
(画面暗転)
○A家・リビング(夜・現在に戻る)
SE:夫婦の激しい口論の声。
美咲:(怒りを抑えて、叫ぶ)
「あなたは何もわかってない!仕事ばっかりで、悠斗には全然会いに来なかったくせに!」
A課長:(言い返しながら、涙ぐむ)
「俺だって…俺だって、つらいんだよ!」
(長い沈黙)
A課長:(声を詰まらせて)
「…ゼロになるなんて、信じられないよ」
(美咲、静かにうつむく)
○A家・リビング(数日後・朝)
N:数日が過ぎても、夫婦の間に言葉は少ない。
A課長:(そっと美咲に向き直る)
「美咲…今日、悠斗の誕生日だろ?…ディズニーランド、行こうか」
美咲:(驚いて、目を伏せる)
「…本気で言ってるの?」
A課長:(うなずく)(優しく微笑む)
(BGM:切ない曲調に変わる)
○ディズニーランド・ゲート前(昼)
SE:賑やかなパレードの音、子供たちの笑い声。
N:A課長と美咲、ぎこちなく園内に足を踏み入れる。
A課長:(遠くの親子連れを見て、苦笑い)
「…やっぱり、来なければよかったかな」
美咲:(涙目で)
「…帰ろうよ、もう…」
(間。
二人、立ち尽くす)
○ディズニーランド・レストラン(夕方)
SE:食器の音、店内のざわめき。
N:A課長がスタッフに小声で何かを伝える。
A課長:(目を伏せて、静かに)
「…去年、子供を亡くしまして。
今日は…息子の誕生日なんです」
(スタッフ、静かにうなずき、奥へ)
(間。
美咲、不安げにA課長を見る)
○同・レストラン(しばらくして)
SE:ハッピーバースデーの歌が響き渡る。
N:店員が、三人分の料理と、小さなバースデーケーキを運ぶ。
スタッフ(20代・温かな笑顔):
「お誕生日、おめでとうございます」
(周囲の客たちも、さりげなく拍手を送る)
美咲:(涙があふれる)(ケーキを見つめて、声を震わせて)
「悠斗…おめでとう…」
A課長:(そっと美咲の手に触れる)(涙をこらえて)
「ありがとう…」
(BGM:静かに高まる)
○ディズニーランド・夜のパレード(夜)
N:パレードの光に照らされ、A課長と美咲は手を取り合い、静かに歩く。
A課長:(遠くを見つめて、優しく微笑む)
「これからも、忘れずにいよう。
…でも、前を向いていこう」
美咲:(うなずき、A課長の肩にもたれる)
N:二人は、消えない誕生日ケーキの記憶と共に、新たな一歩を踏み出していく。
(BGM:フェードアウト)
切ない話:消えない誕生日ケーキ ~ディズニーランドに響く家族の約束~
消えない誕生日ケーキ ~ディズニーランドに響く家族の約束~
🎭 ドラマ に変換して表示中
読了
スワイプして関連記事へ
0%
記事要約(300文字)
ダミー1にテキストを変換しています...
0%
変換中
コメント