三人分のバースデーケーキが運ばれ、見知らぬ人たちと共に「ハッピーバースデー」を歌ったあの瞬間、A課長夫婦は涙が止まらなかった。
奇跡が起きた、と心の底から思えた。
亡き子の存在を祝福しながら、二人は手を取り合い「前に進もう」と決意したのだった。
しかし、ほんの数時間前まで二人の間には深い溝があった。
ディズニーランドに来たものの、親子連れを見るたびにA課長も妻も涙をこらえきれず、「やっぱり帰ろう」とさえ言い合った。
毎年続けていた誕生日の祝いが、今年だけは苦しみとなって降りかかっていたのだ。
話はさらに数ヶ月前に遡る。
A課長夫婦は、幼い我が子を不治の病で突然亡くした。
その喪失感は想像を絶し、特に妻は絶望の底に沈んだ。
ストレスからA課長へのDV行為もあったが、A課長はただただ耐え、妻の心が癒えるのを待つしかなかった。
日々の喧嘩、涙、怒り。
A課長自身も「ゼロになるとは信じられない」と、人生の意味を見失いかけていた。
そもそもの始まりは、愛する息子を病院に見舞うことさえできず、「退院したらディズニーに行こう」と何気なく話していた日常だった。
まさか突然子供が亡くなるとは思ってもいなかった。
その日から夫婦の時間は止まったままだったのである。
だが、あの日、A課長は亡き子の誕生日だけは忘れず「ディズニーランドに行こう」と妻を誘った。
最初は苦しみが増すだけに思えたディズニーの旅。
しかし、レストランで「昨年、子供を亡くした」と打ち明けると、キャストたちの温かな配慮――三人分の席、バースデーケーキ、そして周囲の人々の歌声――が、二人の心の氷を溶かしたのだった。
奇跡は、思いがけない形で訪れる。
喪失の先にある新たな一歩を、二人はようやく見つけ出したのだ。
切ない話:涙のバースデーケーキから始まる、喪失と再生の物語
涙のバースデーケーキから始まる、喪失と再生の物語
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