■ディズニーランドで迎えた、亡き子の誕生日——夫婦が選んだ再出発の場
「子どもの誕生日を、今年もディズニーランドで祝いたい」。
そう語ったのは、関東地方の大手企業に勤務するA課長(仮名・40代)である。
2022年、A課長夫妻は最愛の長男(当時5歳)を難病で亡くしてから、初めてその誕生日を迎えた。
子を失った夫婦は、なぜ“思い出の地”に再び足を運ぶ決断をしたのか——。
夫妻への取材をもとに、その心の軌跡をたどった。
■「ゼロになるとは信じられない」——喪失の渦中で
A課長夫妻は2022年、長男を不治の病で失った。
死因は明らかにされておらず、幼稚園年中だった長男は、急逝したという。
A課長は「最初は『いずれ退院して家族でディズニーランドに行こう』と楽観的に考えていた」と振り返る。
しかし、退院を待たずして訃報が届いた。
「ゼロになるとは信じられない」。
A課長は、家族の喪失感を言葉にした。
妻は喪失とストレスから、A課長に対して暴力的な言動を取ることもあったという。
「妻の行動を責める気にはなれなかった。
彼女も苦しんでいた」とA課長は語る。
夫婦は日々口論が絶えず、家庭は深い悲しみに包まれた。
■ディズニーランドに向かった理由——「いつも通り」に意味を見出す
転機となったのは、亡き長男の誕生日である。
「毎年、誕生日はディズニーランドで祝っていた。
今年も同じようにしよう」とA課長が妻に提案した。
妻は当初、気が進まない様子だった。
「街中や園内で親子連れを見るのが辛かった」と妻は振り返る。
それでも夫妻は、予約していたレストランでの食事を計画通り実行した。
■「三人分の席」とバースデーケーキ——キャストの配慮がもたらした変化
ディズニーランドのレストランでは、A課長が「昨年、子どもを亡くした」とスタッフに伝えた。
すると、店側は三人分の食事を用意し、亡き子へのバースデーケーキも提供した。
周囲の来園客もハッピーバースデーの歌をともに歌い、夫妻は「奇跡のような瞬間だった」と語る。
その体験を通じて、「自分たちが間違っていたかもしれない」「子どもを忘れず、前に進もう」と夫婦は心を新たにしたという。
■喪失と向き合う家族たち——専門家の見解
家族の喪失体験について、臨床心理士の佐藤美咲氏は「悲嘆(グリーフ)を乗り越える過程では、日常の一部を再現することで心の整理が進む場合がある」と指摘する。
佐藤氏は「喪失を共有し、記念日を大切にすることが、夫婦や家族の再生につながる」と話す。
■再出発の一歩——社会に必要な支援とは
A課長夫妻は現在、子どもの思い出を胸に日々を送っている。
「奇跡を信じ、手を取り合っていきたい」とA課長は語った。
専門家は「同様の経験をする家族が孤立しないための社会的な支援が重要」と指摘する。
家族の喪失と向き合う人々が、どのように日常を取り戻していくのか。
社会全体の理解とサポートが問われている。
切ない話:幼いわが子を失った夫婦が「再生の誕生日」に選んだディズニーランド——喪失と再出発の記録
幼いわが子を失った夫婦が「再生の誕生日」に選んだディズニーランド——喪失と再出発の記録
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