「先生の涙」から始まる、あの日の逆転記憶

涙が止まらなかった、あの瞬間。

先生が静かに「気づいてあげられなくて、ごめんな」と言ったとき、私は初めて心の底から泣きたくなった。
あの優しい声と、先生の目に浮かんだ涙――それは今でも忘れられない。

いじめは、あっという間に解決した。
加害者たちは本気で叱られ、私が望んでいた通り親にも知らされることはなかった。
先生のその気遣いが、何よりも嬉しかった。
中学二年に進級してからはほとんど接点がなくなったけれど、廊下ですれ違うたび、胸が少し痛くなった。
それは、あの涙の記憶が胸に残り続けていたからだ。

だが、なぜ先生の涙が私の心を揺さぶったのか。
話は、少し前に遡る。

ある日、私は先生に呼び出された。
職員室の前で緊張しながら扉を開けると、先生は普段と違う表情で迎えてくれた。
「いじめのこと、聞いたよ」と一言。
観念した私は、これまで誰にも話せなかったことをすべて話した。
先生は黙って、時に眉をひそめ、拳を握りしめ、真剣に聞いてくれた。
そしてこう言った。
「大体、わかった。
彼らには、がっつり言っておかなきゃな」。
その言葉に、私はようやく安堵した。
けれど、次の「……何で、黙ってたの？」という呟きに、胸が締めつけられた。

どうして私は誰にも言わなかったのか。
理由は、ずっと心の奥にあった。
小学校時代、同じような経験があった。
大人に話しても、何も変わらなかった。
だから、「どうせまた同じことの繰り返し」と、私は諦めていた。

話はさらに前へ戻る。

私がその先生と出会ったのは、中学一年の春。
明るくて元気、全力投球の先生で、時には本気で机を叩いて怒る姿に驚いたけれど、すぐに大好きになった。
「この先生が担任で良かった」。
そう思える出会いは、人生で数少ないものだった。

しかし、そんな日々の中、中学一年の後半、私はいじめに遭った。
誰にも話せず、ただ時間が過ぎるのを待っていた。
そんな私に、先生が手を差し伸べてくれたのだ。

今、私は思う。
先生の涙は、決して責めるものでも、無力さでもなかった。
あれは、私の痛みに、本気で寄り添ってくれた証。

あの瞬間から、私の中で「大人」に対する見方は少し変わった。

きっとこれからも、先生の涙は、私の心に残り続けるだろう。

それが、あの日の本当の意味だったのだ。