「さようなら」の理由――運命の恋が終わるまで

「さようなら」――その一言で、僕たちは静かに終わった。
彼女は悲しみを湛えたまま、ゆっくりと僕の前から去っていった。
あの日の彼女の背中が、今も忘れられない。

なぜ、別れを選んだのか。
あのときの僕は、自分には彼女の子どもを本当の家族として愛しきる覚悟がない、と結論を出したのだ。
血のつながらない子を、実の子と同じように愛せるのか――その葛藤に、どうしても答えを見つけられなかった。

しかし、すべてが崩れたわけではなかった。
彼女は子どもと3人で会うことを受け入れてくれ、僕も新しい家族の形に希望を感じていた。
彼女の子どもにも好かれ、少しずつ距離は縮まっていった。
でも、その一方で「自分は本当にこのままでいいのだろうか」と、心の奥で問い続けていた。

話はさらに遡る。
3回目のデートで、彼女は申し訳なさそうに打ち明けてくれた。
「バツイチだけじゃない。
子どもが一人いるの。
あなたと会う日は親に預けている」。
その素直さに、僕は正直に話してくれたことを嬉しく思い、「僕もその子と遊びたい」と答えた。

そもそもの始まりは、26歳のある飲み会だった。
そこで運命を感じる女性と偶然隣り合わせになったのだ。
大人っぽいけど可愛らしい彼女。
しかも、同い年で同じ誕生日。
出会った瞬間に心が大きく動いた。
後日、彼女がバツイチだと知ったときも、僕はそれを気にしなかった。
そして、思い切って告白し、彼女も受け入れてくれた。

今振り返ると、もしかしたら僕は彼女と子どもを本当の意味で愛せるまで、もう少し時間が必要だったのかもしれない。
愛情さえあれば乗り越えられたのか、あるいは出会うタイミングが早すぎたのか。
悔いは残るが、あの「さようなら」には、僕自身の未熟さと、彼女への感謝、そして未来への希望が込められていたのだと思う。