■【起】〜静かな岩場、釣り人ひとりの休日〜
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ある日、気まぐれに趣味の海釣りへ出かけた。
沖合いではなく、磯や岩場を舞台にした釣りだ。
選んだのは、地元の釣り好きの間で密かに「穴場」として知られる岩場。
知る人ぞ知るスポットで、豊かな釣果を期待できると評判だった。
その岩場は崖のように高く、海面まではほぼ垂直の岩肌が続いていた。
覗き込むと岩肌は深い海の底まで伸びているように見え、水深も相当なものと思われた。
平日だけあって、周囲に人影はほとんどなかった。
静けさの中、竿を振り下ろし、ひとりの時間を楽しんでいた。
■【承】〜静寂と期待、揺れる心と海面〜
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午前中は釣果がさっぱりで、午後になっても状況は好転しなかった。
陽が傾き始めるにつれ、「今日はもう帰ろうか」と思い始めていた。
ふと水面下に大きな黒い影が現れる。
最初は雲の影かと思ったが、どうやらイカの大群のようだ。
こんな場所にイカが来るとは珍しい。
期待が膨らみ、釣り糸をその方向へ投げ入れた。
すると、すぐに強烈な引きが訪れる。
大物かもしれない。
慎重に、しかし興奮しながらリールを巻くが、相手の動きは不規則で、妙な違和感を覚えた。
引き上げに苦戦し、竿を岩の隙間に固定して様子を見ることにした。
■【転】〜海の底から伸びる“人の手”〜
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群れの方をじっと覗き込むと、そこには想像を絶する光景が広がっていた。
イカの群れだと思っていたものは、実は無数の人の手だったのだ。
それらは糸にしがみつき、必死に岩場へ這い上がろうとしている。
その姿は、まるで地獄から這い上がる怨霊のよう。
全身で糸にしがみつく男と目が合った瞬間、動けなくなり絶句した。
苦しそうな顔、悔しそうな顔、怒りに満ちた顔――それらがこちらをじっと見据えていた。
突然、「バキッ」という音が響き、岩に固定していた竿が外れ、海へと落ちていった。
竿は一瞬で海に飲まれて消える。
その時、霊たちが上がろうとしていたのではなく、逆に自分を海へと引きずり込もうとしていたのだと悟った。
■【結】〜残された恐怖と、もう戻れない場所〜
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恐怖に駆られ、慌てて道具をまとめ、その場を離れた。
後から知ったのは、その崖が自殺の名所として有名な場所だったという事実。
あの日以来、二度と岩場で釣りをすることはなくなった。
静かな海と岩場の記憶には、今もあの時の恐怖が色濃く残っている。
怖い話:崖の静寂に忍び寄る手──海釣りで遭遇した呪われた岩場
崖の静寂に忍び寄る手──海釣りで遭遇した呪われた岩場
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