怖い話:デパートの迷路で迷子になった午後、見知らぬ男とトイレ個室—薄暗い恐怖と心の揺れをたどる超詳細回想

デパートの迷路で迷子になった午後、見知らぬ男とトイレ個室—薄暗い恐怖と心の揺れをたどる超詳細回想

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あれは、僕がまだ中学生だったある曇り空の午後のことだ。
母親と二人で、郊外の古びたデパートに買い物に来ていた。
昭和の面影を残したその建物は、外壁のペンキもところどころ剥げていて、窓ガラスには長年の埃が薄く降り積もっていた。
天井からぶら下がる蛍光灯は、時おり微かにジジッと音を立てながら、白く冷たい光を放っている。
店内独特の空気——人々の衣服や化粧品、食品売り場から漂う甘い香りと、床から立ち上る洗剤の匂いが混ざり合い、どこか懐かしく、けれどほんの少しだけ不安を誘う匂いだった。

その雑然としたフロアで、僕はふと母の手を離してしまった。
ほんの一瞬、目を離した隙だった。
気がつくと、母の姿は人混みに紛れて見えなくなっていた。
途端に胸の奥がきゅっと縮こまり、手のひらが汗ばんだ。
周囲のざわめきが、いつもより遠く、そして低く聞こえる。
焦りと不安に駆られながら、僕はフロアをうろつき始めた。
エスカレーターの横をすり抜け、婦人服売り場のマネキンの間を通り抜けて、気づけばトイレの前に立っていた。

その時だった。
トイレの入口近く——薄暗い通路の端で、20代半ばほどの見知らぬ男が、どこか所在なさげに立っていた。
彼の服は地味な色合いで、グレーのパーカーに黒いジーンズ。
表情は硬く、目だけが妙に落ち着きなく動いていた。
その男が、突然僕に声をかけてきた。

「ねえ、○○って雑誌の取材なんだけど、ちょっと時間ある?」

その声は小さく、けれどもどこか急いていた。
周囲のざわめきの中で、彼の声だけが妙に浮かび上がる。
僕は一瞬きょとんとした。
取材? 雑誌? 頭の中で言葉がぐるぐる回る。
けれど、思春期の僕の心を一気に引き寄せたのは、「取材=謝礼がもらえるかもしれない」という淡い期待だった。
図書券か、現金か——ほんの少しだけリッチな気分になれるかもしれない。
そんな淡い夢に背中を押されるように、僕は首を縦に振った。

男は素早く周囲を見回し、低い声で続けた。

「少年の性についての取材なんだけど、人前で話せないから、トイレの個室でいい?」

僕はその時、何の疑いも持たず、ただ「大人のお願い」に従うことに奇妙な高揚感すら覚えていた。
デパートのトイレは、薄暗くて人工的な洗剤の匂いが強く、床は冷たく滑りやすかった。
個室のドアを閉めると、外のざわめきが一気に遠のき、ちいさな空間に男の呼吸と僕の鼓動だけが響いた。

最初、男はいくつか質問を投げかけてきた。
たとえば「友達とどんなエロ話をするの?」とか、「最近、好きな子はいる?」とか。
僕は戸惑いながらも、冗談めかして答えていた。
けれど、突然、男が僕のズボンに手を伸ばしてきた。
冷たい指先が、僕の下半身に触れる。
思わず全身が硬直した。
心臓がどくどくと速く打ち、喉がひどく乾いた。

「こうされても、勃たないの?」

男の声は、さっきまでよりも低く、ねっとりとした響きを帯びていた。
僕は必死に呼吸を整え、「こ、こういうの慣れてるんで」と、意味のわからないことを口走ってしまった。
自分でもなぜそんなことを言ったのか分からない。
ただ、恥ずかしさと恐怖、そして「負けたくない」という奇妙な意地が、僕の口を突いて出たのだ。
中学生が「慣れている」なんて、どう考えてもおかしい。
それでも、その時の僕は、自分を守るためにそう言うしかなかった。

時間がどのくらい経ったのか分からない。
男はしばらく僕の体を弄び続けたが、僕は必死に感覚を遮断し、頭の中で母の顔や、好きな漫画のことを思い浮かべていた。
手汗で手のひらがじっとりと湿り、足元の床の冷たさが脛を伝ってきた。
外の空気は澱んで重く、個室の中は狭苦しく息苦しかった。

やがて、男は何かに飽きたように、あるいは期待を裏切られたように、唐突に「じゃあ、もう終わり」と言った。
謝礼の話は一切なく、男は素早く個室を出て行った。
その背中が消えていく様子は、まるで何もなかったかのようにあっけなかった。
僕はその場にしばらく立ち尽くしていた。
期待していた図書券も、ちょっとしたお小遣いも、何一つ手に入らなかった。
そのことが、なぜかひどくショックだった。

でも、個室の中に残された自分の手の震え、鼓動の高鳴り、喉の渇き——それらがすべて、ただの「取材」ではなかったことを、時間が経つごとにじわじわと実感させていった。
あの狭苦しいトイレの個室、安っぽい白い壁、床に反射する人工灯の光の冷たさ。
全てが今も脳裏に焼き付いている。

今になって思い返すと、あれは取材なんかじゃなかったんだろうなと、背筋に冷たいものが走る。
子どもの無邪気さと無防備さ、そしてその脆さ。
それが、あの薄暗いデパートのトイレの個室で、確かに試され、傷ついた午後だった。
読了
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