「知らない人について行ったあの日――境界線と自分を守る知恵」

子どものころ、親と一緒にデパートで買い物をしていた時、ふいに迷子になったことがありました。
不安な気持ちのままフロアを歩いていると、ある男性が「雑誌の取材なんだけど、ちょっと時間ある？」と声をかけてきました。
好奇心と、「謝礼がもらえるかも」という期待だけで、その誘いに応じてしまい、言われるままトイレの個室までついて行きました。

最初は他愛のない質問でしたが、やがて違和感を覚える展開に。
けれど、そのときの私は状況を正しく判断できず、相手の意図も疑いませんでした。
結局、怪しい「取材」は突然終わり、謝礼もなく、私はただ戸惑いとショックだけが残りました。

今、思い返すと、あれは取材でもなんでもなかったのだと気づき、背筋が寒くなります。

この経験から得た一番の気づきは、「知らない人の言葉を鵜呑みにしてはいけない」という単純なこと以上に、「自分と他人との間に健全な境界線を引くことの大切さ」でした。
特に子どもの頃は、相手が大人だとつい信用してしまいがちですが、自分の安全を守るためには「どこまでが自分の領域か」を意識することが重要なのだと痛感します。

また、「その場の空気や期待で流されてしまう弱さ」も、人間誰しもが持っているものです。
誰かの好意やメリットにつられて、つい判断を委ねてしまうこともあるかもしれません。
しかし、違和感を覚えたら一度立ち止まり、自分の直感や不安な気持ちに正直になること――それが自分を守る最初の一歩です。

この話は、迷子になったときの不安や、思いがけない誘いに戸惑う気持ち、そして「信じたい自分」と「守りたい自分」の葛藤を、誰もが一度は経験するものとして描いています。
決して、「怖い目に遭った自分が悪い」と責めるのではなく、むしろ「知らなかったからこそ学べたことがある」と受け止めることが、成長への第一歩かもしれません。

もし同じような状況に出会ったときは――
・知らない人からの誘いには、まず「これは本当に安全か？」と立ち止まって考える
・「ちょっと変だな」と思ったときは、すぐに近くの大人や信頼できる人に相談する
・「謝礼」や「特別な体験」など、甘い言葉ほど慎重になる
そんな小さな習慣を、日常の中で意識してみてください。

あなた自身の過去を振り返ったとき、「あのとき、なぜあんな判断をしたんだろう」と思うような経験があるかもしれません。
でも、それもまた、よりよく生きるための大切な学びです。
人生では、ときに自分の弱さや未熟さに気づかされますが、そこから「次はどうするか」を考えることが、本当の意味で自分を守り、成長させる力になるのだと思います。

この教訓を、家族や友人、あなたの大切な人との関係や、日々の選択に活かしてみてはいかがでしょうか。