スカッとする話:昼下がりの静謐を破る者たち――義母とその友人、そして静かな逆襲の記憶

昼下がりの静謐を破る者たち――義母とその友人、そして静かな逆襲の記憶

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午後一時の光が、ゆっくりとリビングの床に長い影を伸ばしていた。
窓辺には柔らかなレースのカーテンが揺れ、初夏の微かな風が室内に新しい空気を運び込む。
私はキッチンで、まな板の上の野菜に包丁を入れていた。
玉ねぎの甘い香りが立ち上り、油のはぜる音に混じって、外の世界からは遠くで遊ぶ子供たちの声が小さく響いてくる。
だが、私の心の奥には、日々繰り返されるある種の緊張が確かに根付いていた。

それは、近距離に住む義母――通称トメ――の存在によるものだった。
彼女は、まるでこの家が自分の別宅であるかのように、いつも昼食時を狙って突然現れる。
玄関のインターホンが鳴ることはほとんどなく、彼女の足音が廊下を進む、その気配で私は昼の訪問を悟るのだった。
その日は、少し重たい足取りと共に、彼女の特有の香水の匂いが玄関先から漂い始めた。
すぐに、彼女の後ろからもう一つの声――甲高い笑い声を混ぜたトメ友の存在を感じ、私は内心で小さくため息をついた。

「また、突然来たんだな」と心の中で呟く。
毎週のように繰り返されるこの“アポなし訪問”に、私はすっかり慣れてしまっていたはずだった。
しかし、そのたびに胸の奥がきゅっと固く締まる。
彼女たちの会話はいつも大きく、家の中の静寂はすぐに破られる。
今日もまた、昼食の準備をする私の手元には、無言の重圧がのしかかっていた。

トメは持病の痔を抱えており、到着してすぐにトイレへ向かうのが常だった。
廊下を歩く彼女の足音が近づき、トイレのドアが閉まる音が響く。
その瞬間、私は前夜から仕掛けておいた小さな“罠”を思い出していた。
彼女が使うウォッシュレットの設定を、彼女の知らぬ間に最強にしておいたのだ。
何度も勝手に家の設備をいじられたり、昼食を当然のものと考えられてきた日々の小さな積み重ねが、私の中の反抗心となって芽吹いていた。

キッチンの窓から差し込む光の中で、私は手を止めて耳を澄ます。
家の中の空気が一瞬、張り詰める。
トイレの中からは、微かな水音と、紙の擦れる音が聞こえてきた。
やがて、突然――

「あにゃゃゃーっ!」という叫び声が、家中に響き渡った。

その声は、普段の義母のものよりもはるかに高く、驚きと痛み、羞恥が入り交じったような複雑な響きを持っていた。
私は思わず包丁を持つ手を止め、リビングにいたトメ友も、グラスを持った手を中空で止めていた。
五感が研ぎ澄まされ、家の中の空気が一瞬、凍りついたように静止する。
次の瞬間、トイレのドアが勢いよく開き、義母が青ざめた表情で廊下を小走りで戻ってきた。

ズボンの色は深いグレーで、太もものあたりが広範囲にわたって濡れている。
彼女はその姿を隠すように手で押さえ、しかしトメ友の視線からは逃れられなかった。
トメ友は最初、驚きの表情を浮かべたが、すぐにその口元を歪めて小さく吹き出した。

「どうしたの、その格好? まさか……子供みたいねぇ」と、遠慮のないからかいの言葉が放たれる。
その声は、リビングの壁に反響して、どこか冷たい響きを帯びていた。

怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤にした義母は、トメ友に向かって鋭く睨み返す。
二人の間には、一瞬の沈黙が流れた。
空気は重く、湿った夏の前触れのように、肌にまとわりつく。
次第にトメ友のからかいがエスカレートし、義母は言い訳を重ね始める。
その声は震え、普段の威圧感はすっかり影を潜めていた。

「あなたなんて、いつも人の失敗を笑ってばかりじゃない!」
「だって、あなたがドジなんだもの。
こんなことで怒っちゃって――」

言葉の応酬は激しさを増し、やがて二人の間には、これまで積み重ねてきた小さな不満や嫉妬が一気に噴き出した。
私の耳には、彼女たちの声がまるで遠雷のようにゴロゴロと重なり合い、家の中の空気がどんどん熱を帯びていくのを感じた。

その間、私はキッチンで静かに昼食の準備を続けていた。
無意識に包丁を握る手に力が入り、心臓の鼓動がひとつずつ高鳴る。
かつて義母から「嫁たるものは……」と上から目線で語られた数々の言葉が、ふと脳裏に蘇る。
だが、今目の前で繰り広げられているのは、友情の名のもとに築かれたはずの関係が、あっけなく崩れ落ちる瞬間だった。

やがて、激しい口論の末に二人は肩を怒らせ、冷たい視線を交わしたまま、そそくさと玄関に向かった。
ドアの閉まる音は、家の中に一瞬だけ重苦しい余韻を残したが、すぐに静けさが戻ってきた。
外ではまだ、子供たちの笑い声が遠く響いている。
だけど、私の家の中は、何年ぶりかと思うほど静まり返っていた。

あの日以来、二週間が経った。
義母も、彼女の友人も、この家を訪れることはなかった。
電話も、メールも、まるで二人がこの世から消えたかのように沈黙を守っている。
私は窓際の椅子に座り、ゆっくりと温かい紅茶を飲みながら、これまで感じたことのない深い安堵を味わった。
静けさの中で、自分の吐く息すらもはっきりと感じ取れる。
胸の奥に、軽やかな解放感が広がっていく。

ほんの小さな、ささやかな反撃のつもりだった。
けれど、あの日のウォッシュレットと、昼食用に用意しておいた激辛カレーやキムチうどん――彼女たちが選ばずに済んだ“刺激”の数々――が、思いがけず大きな効果をもたらしたのだろう。
私は、今も時折リビングの静寂に耳を澄ませる。
いつまでこの平和が続くのか分からないが、今はただ、季節の移ろいと共に訪れたこの静けさを大切に味わっている。

誰にも気づかれない小さな逆襲が、静かな幸福の扉をそっと開いた――そんな気がしていた。
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