それは幽霊ではなかった。
階段の上、月明かりの中で包丁を握り、俺をじっと見下ろしていたのは、友人Aだった。
その直前、俺は「霊キタコレ〜」と興奮していた。
階段の上に現れた人影を、ずっと憧れていた心霊体験だと信じ込んでいたからだ。
時計を見ると、午前0時40分。
Aから聞かされた「1時は避けろ」という忠告を思い出しながらも、俺は神社の林の中、秘密の抜け道を抜けてきた。
事の発端は、Aが突然俺に近づいてきたことだ。
普段はあまり親しくしないAが、「○△神社で幽霊を2回見た」と話しかけてきた。
俺のオカルト趣味が知られているからだろうか。
だが、俺にはAに隠している過去がある――Aの彼女を奪ったことだ。
Aはまだそれを知らないはずだった。
なぜAは階段の上で包丁を持って待ち構えていたのか。
その理由は今も分からない。
ただ一つ確かなのは、この夜、俺が追い求めていたのは幽霊だったが、実際に待っていたのは生きた人間――しかも、俺の罪を知っているかもしれないAだったということだ。
信じられないかもしれないが、恐怖は超常現象よりも、むしろ人間のほうが深い。
あの夜の神社で俺が見たのは、「幽霊」ではなく、俺自身が引き起こした因果の化身だったのかもしれない。
怖い話:包丁を握るA ― 幽霊のはずだった階段の人影
包丁を握るA ― 幽霊のはずだった階段の人影
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