君の背中を追いかけて――孤独な僕に光が射した日

○回想・児童養護施設の庭（夕方）

N：僕は幼い頃、両親に見放された。

（小さな少年・ユウタ（7歳・やせた体、古びた服）　一人でブランコに座っている）

SE：子供たちの笑い声、遠くで響く

（ユウタ、静かに下を向く）

○回想・小学校・校庭（昼）

（ユウタ、グラウンドの隅に立っている。
周囲の子供たちが囁き合う）

生徒Ａ（小声で）：あいつ、施設の子だって。

生徒Ｂ：同じ服ばっかり着てるよ、乞食みたい。

（ユウタ、肩をすくめ目を伏せる）

N：小さな僕は「施設の子」「いつも同じ服の乞食」と指をさされていた。

○回想・同級生の家・玄関前（夕方）

（ユウタ、友人・ショウタの後ろに立つ。
玄関の奥から母親の怒鳴り声）

ショウタ母（30代・強い口調）：ショウタ！ユウタ君と遊んじゃいけないって言ったでしょ！

（ショウタ、困った顔でユウタを見る）

ショウタ母：（ユウタを睨みつけて）ショウタは今日は遊べないの…（バタン、と戸を閉める）

SE：戸が閉まる音

（ユウタ、立ち尽くす）

N：そんなことが何度も続いた。

○回想・施設の自室（夜）

（ユウタ、布団にうずくまり、枕を抱きしめている）

ユウタ：（心の声）（涙をこらえて）僕は弱かった。
一人でいることが、いちばん楽で傷つかないと知った。

（間）

ユウタ：（心の声）でも、本当は――言いたいことが山ほどあった。

（目を閉じて）

ユウタ：（心の声）汚い服でも、同じ服ばかりでも、誰かの物を盗ったことも、人を傷つけたこともない。
両親がいないのも、僕にはどうすることもできなかった。

（目元に涙がにじむ）

ユウタ：（心の声）本当は――お父さんも、お母さんも、欲しかった。

（BGM：静かに切ない曲調）

N：だから僕は、なるべく人と接しないように生きた。
誰にも迷惑をかけずに、静かに、独りで――。

○高校・教室（朝）

（17歳のユウタ（やや影のある表情）、自分の席に向かう）

（机に大きく黒いマジックで「死ね」「乞食」「貧乏神」「親無し」と書かれている）

SE：ガヤガヤした教室のざわめき

（ユウタ、言葉を失い立ち尽くす）

N：僕は何か悪いことをしたのか。
ただ、立ち尽くすしかなかった。

○同・教室（間）

（人気者のY（17歳・明るく活発）、無言でユウタの机を抱え上げる）

ユウタ：（驚いて、動けずにいる）（心の声）――殴られる。

（ユウタ、覚悟して目を閉じる）

Y：（ぼそっと）行くぞ。

（Y、机を持って廊下へ。
ユウタ、戸惑いながらもその背中を追いかける）

○高校・技術室（朝）

（Y、無言で紙やすりを手に取り、机の落書きを削り始める）

SE：紙やすりでこする音

（ユウタ、黙って見つめる）

Y：（落書きを削りながら、ぽつりと）つまんないことに負けんなよ。

（ユウタ、瞳に涙があふれる）

ユウタ：（声を震わせて）…ありがとう。

（Y、照れくさそうに笑う）

Y：（少しだけ視線を合わせて）放課後、もう一回ここでニス塗ろうぜ。
そしたら元通りだ。

（ユウタ、涙をこらえながら何度も頷く）

（BGM：希望が差すような音色に変わる）

○現在・カフェ（昼）

（ユウタ（25歳・落ち着いた表情）、スマホを手にYからの結婚式の招待状を見つめている）

N：Yは、6月に結婚する。
本当に、おめでとう。

（ユウタ、窓の外を見つめる）

N：あの日、あの言葉がなかったら。
Yがいなかったら――今の僕はきっと存在しなかった。

○結婚式会場・控室（当日）

（Y（25歳・タキシード姿）、ユウタと並んで座る）

（少しの沈黙）

ユウタ：（目を伏せて、照れくさそうに）これからも…ずっと、親友でいてほしい。

Y：（笑って、そっと肩を叩く）

Y：当たり前だろ。

（ユウタ、少し涙ぐみながら微笑む）

N：Y、本当にありがとう。
幸せになってください。
心からそう願っています。

（BGM：静かにフェードアウト）