涙が止まらなかった、あの瞬間。
Yは、黙々と僕の机の落書きを削りながら、一言だけこう言った。
― つまんないことに負けんなよ
その言葉が胸に突き刺さり、僕の中の何かが崩れ去った。
気づけば心の底から涙があふれていた。
放課後、Yは照れくさそうに笑って、
― もう一回ここでニス塗ろうぜ。
そしたら元通りだ
と誘ってくれた。
僕は泣きながら何度もうなずいた。
なぜ僕の机は、あんなにも酷い言葉で汚されていたのか。
話は少しだけ遡る――
高校に進学した朝のこと。
教室の自分の席へ向かうと、机に大きく黒いマジックで「死ね」「乞食」「貧乏神」「親無し」と書かれていた。
目の前が真っ暗になり、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
僕は何も悪いことはしていないのに。
その瞬間、クラスの人気者Yが無言で僕の机を抱えあげ、廊下へ運び出した。
僕は一瞬、殴られるのかと覚悟した。
しかしYは何も言わず、技術室へ向かい、紙やすりで落書きを削り始めたのだった。
どうして僕は、あんなにも孤独で、傷つきやすかったのか。
話をさらに巻き戻そう。
僕は幼い頃、両親に見放された。
様々な場所を渡り歩き、「施設の子」「いつも同じ服の乞食」と指をさされてきた。
同級生の家に遊びに行っても、母親に「○○君と遊んじゃいけない」と追い返されることも何度もあった。
弱かった僕は、一人でいることが一番楽で傷つかないと知った。
でも本当は、言いたいことが山ほどあった。
汚い服でも、誰かの物を盗ったことも、人を傷つけたこともない。
両親がいないのも僕にはどうすることもできなかった。
本当は――お父さんも、お母さんも、欲しかった。
だから僕は、人と接しないように、誰にも迷惑をかけずに独りで生きてきた。
そんな僕にとって、Yのあの一言は、人生を変えるほどの出来事だった。
今、Yは6月に結婚する。
もし、あの日、Yがいなかったら、あの言葉がなかったら、きっと今の僕は存在しなかっただろう。
照れくさくて面と向かっては言えないけれど、これからもずっと親友でいてほしい。
Y、本当にありがとう。
心から、幸せになってください。
その一言が、僕に生きる理由をくれた。
感動する話:涙が溢れた、その一言の理由――親友Yとの逆転の記憶
涙が溢れた、その一言の理由――親友Yとの逆転の記憶
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