「死ね」「乞食」と机に落書きされた少年　救ったクラスメートの一言、孤独を超えた友情の軌跡

■リード文
「死ね」「乞食」――。
高校入学直後、机に書かれた心ない言葉。
両親に見放され、施設で育ったAさん（仮名）が、いじめに苦しむなか、あるクラスメートの思いがけない行動が彼の人生を変えた。
「孤独から救ってくれた恩人」とAさんは語る。
いじめ被害と再生の軌跡を取材した。

■いじめ被害　高校入学直後の出来事
Aさんが事件に直面したのは、高校入学間もないある朝だった。
自席に向かうと、机の上に黒いマジックで「死ね」「乞食」「貧乏神」「親無し」と大きく書かれていた。
Aさんは「目の前が真っ暗になった」と当時を振り返る。
自身が何か悪いことをしたのか、ただ立ち尽くすしかなかったという。

■孤立を深めた幼少期
Aさんの境遇は、幼少期から厳しいものだった。
両親の離別により幼くして施設で暮らし、周囲から「施設の子」と指をさされ続けた。
友人の家に招かれても「○○君とは遊ばないように」と親に拒まれた経験も複数回あった。
Aさんは「一人でいることが一番楽だと覚えた」と語る。

■転機　クラスメートYさんの行動
だが、いじめに立ちすくむAさんの前に現れたのが、クラスの人気者Yさんだった。
Yさんは無言でAさんの机を技術室まで運び、紙やすりで落書きを削り始めた。
Aさんは「殴られるのかと思った」と警戒したが、Yさんはただ一言、「つまんないことに負けんなよ」と励ました。

放課後には「もう一度ここでニスを塗ろう。
そうすれば元通りだ」と声をかけ、Aさんとともに机を修復したという。
Aさんは「たった一言で心が崩れ落ち、涙が止まらなかった」と語る。

■現在　支え合う友情
Yさんは今年6月に結婚を控えている。
Aさんは「彼がいなければ今の自分は存在しない」と感謝を口にする。
直接伝えるのは照れくさいとしつつも、「これからも親友でいてほしい」と強調した。

■専門家の見解と今後
いじめ問題に詳しい臨床心理士の佐藤美咲氏は「孤立した子どもにとって、たった一人でも味方が現れることは非常に大きな意味を持つ。
小さな勇気が、被害者の自己肯定感や将来の生き方に大きく影響する」と指摘する。

文部科学省の調査（2022年度）では、小中高生のいじめ認知件数は過去最多となっている。
Aさんのような事例が示す通り、個人の行動が周囲の環境を変える可能性は大きい。
今後、いじめ防止のための仕組みづくりや、当事者への積極的な支援が求められる。

あなたの身近に困っている人はいないだろうか。
小さな行動が、誰かの人生を救うかもしれない。