夜勤警備中の静かな裏道で出会った、不思議な人影の話

昔、警備会社で夜勤をしていたときの話です。

普段は国道沿いの工事現場で働いており、車の往来が多く、いつも騒がしい音に囲まれていました。

そんな中、ある日珍しく裏道での仕事が回ってきました。

その細い裏道は、臨時の水道工事のため車の通行が止められていたのです。

夜になると、ほとんど車が通ることもなく、とても静かな道での勤務だったので、私も心が落ち着きました。

国道沿いの現場よりも静かで、自分の好きなように妄想しながら、ゆっくりと仕事ができるところが気に入っていたのです。

また、その日はうるさい先輩もいなかったので、「今日はラッキーだな」と思いました。

その日の仕事は、工事中の場所に車が入らないよう見張るだけの、比較的簡単なものでした。

住宅街の一方通行が多い区間だったため、私一人で現場に立ち、早朝になったら早番の人と交代するという流れでした。

まず、最寄りのトイレと自動販売機を確認し、赤く光る警棒（誘導灯）を持って、狭い交差点の角に立ちました。

ここは四方の道路が見渡せる場所なので、どこから車が来ても気づくことができるはず、そう思いながら「今日はここで過ごそう」と決めました。

最初の一時間で車は二台ほど通りましたが、工事区域に入り込む車はありませんでした。

飲み明けのサラリーマンが家路につく様子を見送った後は、人も車もいなくなりました。

周囲の家々も時間と共に一軒ずつ電気が消えていき、私は街灯以外に光のない静かな街並みを見て、思わず微笑んでしまいました。

「おいおいサボり放題じゃん。
野良犬すら通らねぇな」

と、つい独り言をつぶやいたその時、聞き慣れない物音が耳に入りました。

工事中の区画を見ると、パイロンで囲まれたマンホールのあたりから、何やら異様な雰囲気を感じ取ったのです。

よく見ると、蓋の開いたマンホールのあたりに、人影が見えます。

とっさに時計を見ると、午前二時半。

こんな時間に作業員がいるはずがありません。

もしかすると酔っ払いが入り込んでいるのか、あるいは夜中にたむろする若者がふざけているのかもしれない、と私は考えました。

どう対応すべきか迷いながら、ゆっくりと近づいてみることにしました。

すると、様子がどこかおかしいことに気づきます。

その人影は、半身を穴に入れたまま動かず、マンホールの中をじっと覗いていました。

薄暗くて見づらい中でしたが、何やらニヤニヤしているようにも見えます。

男性のようです。
笑っているように見えますが、動かずにマンホールの中を見つめているのです。

どのように体を支えているのか分からず、不気味に感じました。

私がマンホールに近づくと、赤く光る棒が一定のリズムで男性の顔を照らしました。

しかし、私が近づいたことを気にする様子もなく、その男性はただマンホールを見つめ続けていました。

暗闇に浮かび上がる男性のシルエットと、等間隔で赤黒く照らされるその顔。

繰り返し目に焼きつくその光景が、次第に恐怖へと変わっていきました。

「何なんだ……コイツ」

その時、男性がゆっくりと私の方に首を動かしました。

目の焦点が合っておらず、顔は歪んでいました。
笑っているかどうかさえ判別できません。

しかし、そこからはっきりとした憎悪のような感情を感じ取ったのです。

私は一瞬で「ここに居てはまずい」と悟り、逃げる体勢をとりました。

ちょうどその時、大通りから車が入ってきて、ヘッドライトが周囲を照らしました。

車が去った後、すぐにマンホールのほうを確認しましたが、そこにはもう男の影はなく、蓋の開いたマンホールが黒い口を開けているだけでした。

「人じゃ、なかったのか……？」

夜明けまで私は交差点に立ち、マンホールから目を離さずにいました。

しかし、男性が再び現れることはなく、帰り際に早番の人と一緒にマンホールの中を確認しましたが、下水の底には何もありませんでした。

それ以来、マンホールを見るたびに、どこか気分が悪くなるようになってしまいました。

もしも、深夜に一人で歩いていて同じような人影を見かけたら、無理をせず、すぐにその場を離れることをおすすめします。