■【起】〜夜勤の静寂、裏道でのひととき〜
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昔、警備会社で夜勤をしていたときのこと。
普段は国道沿いの工事現場で、ひっきりなしの車と騒音に囲まれて働いていた。
そんなある日、珍しく裏道での仕事が回ってきた。
そこは臨時の水道工事で通行止めになっており、夜はほとんど車も通らない、静かな住宅街の一角だった。
俺は最寄りのトイレや自販機を確認し、赤く光る警棒を手に、狭い交差点の角に立った。
四方の道が見渡せるその場所で、今日ばかりはうるさい先輩もおらず、妄想に耽りながらゆっくり働けることに少しだけ幸せを感じていた。
■【承】〜静寂の中の違和感と不安の芽生え〜
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最初の一時間ほどで車は二台ほど通ったが、工事区域に入り込む者はいなかった。
やがて飲み明けのサラリーマンが去り、家々の灯りも次第に消えていった。
街灯だけが静かに辺りを照らす、深夜の裏道。
「おいおいサボり放題じゃん。
野良犬すら通らねぇな」と独り言を呟いた、そのときだった。
聞き慣れない物音が耳に届く。
工事区画のパイロンで囲まれたマンホールのあたりに、妙な気配を感じ取った。
よく見ると、蓋の開いたマンホールのそばに人影がある。
時計を見ると午前二時半。
こんな時間に作業員がいるはずもない。
酔っ払いか、悪ふざけの若者か。
俺は警戒しつつ、どう対応するべきか判断を迫られた。
■【転】〜赤く照らされた異形の男、恐怖の頂点〜
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ゆっくりとマンホールに近づくと、異様な光景が浮かび上がった。
男は半身を穴に突っ込み、動かずにマンホールの中を見つめている。
薄暗い中、ニヤニヤと笑っているようにも見えた。
赤く光る警棒がリズミカルに男の顔を照らすが、こちらに気づく気配はない。
浮かび上がる男のシルエットと赤黒い顔が、網膜に焼き付き、不安がじわじわと恐怖へと変わっていく。
「何なんだ……コイツ」そう思った瞬間、男がゆっくりとこちらに首を向けた。
焦点の合わない目、歪んだ顔。
笑っているかどうかも分からないのに、はっきりと憎悪の気配だけが伝わってきた。
俺は「ここにいてはいけない」と直感し、逃げる体勢を取った。
ちょうどそのとき、大通りから車が入り、ヘッドライトが辺りを照らす。
その一瞬の後、マンホールのそばに男の姿は消えていた。
開いた蓋だけが、黒々と口を開けている。
■【結】〜消えた男と残された不安の影〜
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「人じゃ、なかったのか……?」そう思いながら、夜明けまで俺は交差点からマンホールを見張り続けた。
しかし、男が再び現れることはなかった。
朝になり、早番の同僚とともにマンホールの中を確認したが、下水の底には何もいなかった。
それ以来、マンホールを見るたびに胸がざわつくようになった。
もし、深夜に同じような人影を見かけたなら、迷わずその場から離れた方がいい。
それが人間であるかどうか、確信は持てないのだから――。
仕事・学校の話:静寂の裏道と赤く照らされた異形の影――夜勤警備員が遭遇した恐怖
静寂の裏道と赤く照らされた異形の影――夜勤警備員が遭遇した恐怖
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