「恐怖体験」をめぐる深層心理――未知と偏見に対する心の防衛メカニズム

■表層行動の観察
筆者はショッピングセンターに向かう途中、古びた病院の前を通りかかり、2階の鉄格子の窓からパジャマ姿の男性が「助けてくれ、殺される」と叫ぶ場面に遭遇し、強い恐怖とトラウマを経験した。
その後、病院についてネットで調べ、精神科であることを知ると、多少の安心感を抱いた。
しかし、病院の「閉鎖病棟」表記に再び強い不安を感じたという。

■感情の分析
筆者が感じた「恐怖」「不安」「安心（？）」は、未知の存在や制御不能な状況に直面した際の自然な情動反応である。
特に、鉄格子・暗闇・雷鳴といった状況が外的な脅威感を増幅させている。
男性の叫びは筆者の「現実感」を揺るがし、自己の安全や日常性への信頼が脅かされた。

■認知の分析
ここでは「認知的枠組み（スキーマ）」や「確証バイアス」が働いている。
筆者は病院の外観や「鉄格子」などのイメージから“異常性”や“危険性”を連想しやすくなっている。
また、精神科と聞いて「少し安心」するのは、「恐怖体験に意味づけを与え、理解可能な枠組みに収めたい」という認知的不協和の解消行動と解釈できる。
つまり、説明不可能な恐怖を「精神疾患」という社会的枠組みで合理化し、自身の不安を和らげている。

■深層心理・無意識の分析
この体験には「抑圧」や「投影」といった防衛機制が見られる。
筆者は自分の中の“不安定さ”や“制御不能な衝動”を外部の「精神疾患の人」「閉鎖病棟」に投影し、自己と他者を分断することで安心感を得ようとしている。
また、「親に聞けなかった」「ネットで調べた」という行動は、家族との愛着スタイルや過去の経験（例えば子ども時代の“危険なものを避ける”学習）が影響している可能性がある。

さらに、「トラウマになった」という表現は、単なる一過性の恐怖ではなく、強いストレス体験が心に残り、時にフラッシュバックや回避傾向（再びその道を通りたくない等）をもたらすPTSD的反応の萌芽も示唆している。

■社会・文化的要因
精神疾患や精神科病院に対する社会的スティグマ（偏見）が、筆者の不安や恐怖を増幅している側面も否定できない。
文化的に「鉄格子の窓」「閉鎖病棟」＝“危険な他者”というイメージが刷り込まれており、個人の経験と集団的無意識が相互作用している。

■統合的理解と成長の可能性
この体験は、未知への不安・偏見・自己防衛という人間心理の普遍的な側面を反映している。
筆者は「差別するつもりはない」と理性的に自己をコントロールしようとするが、深層では“異質なもの”への防衛的反応が生じている。
その一方で、ネットでの調査や自己分析を通じて、認知の再構成や偏見の修正を試みている点に心理的成長の萌芽が見られる。

もし筆者が今後、精神疾患や病院について正確な知識や当事者との交流などを重ねれば、恐怖や偏見が和らぎ、より多角的で共感的な理解が進む可能性がある。
この体験は、自己と他者、未知と既知の境界を問い直す契機となりうるだろう。