「異世界体験」を3度語る男性　現実と幻想のはざまで――取材で見えた心の軌跡

■リード文
「これまでに3度、異世界へ行った」。
そう語るのは、関東地方在住の会社員・A氏（46歳、仮名）である。
A氏は9歳、23歳、36歳という人生の転機で、現実とは異なる“もう一つの世界”を体験したという。
なぜA氏は異世界を繰り返し訪れることになったのか。
その背景や影響、専門家の見解を交えながら、本人への独自取材をもとに検証する。

■「現実が壊れた時、異世界が現れる」
A氏が最初に“異世界”を体験したのは、9歳か10歳の頃だった。
学校でのいじめや家庭の崩壊により、心身ともに追い詰められていた時期である。
A氏は当時をこう振り返る。
「夜中に目を覚まし、無意識のうちに外へ出ていました。
気づいた時には見知らぬ森を歩いていたのです」。

森では老婆に出会い、昔ながらの生活を営む集落に招かれたという。
そこには電気製品はなく、老婆の家族や子供たちが温かく迎えてくれた。
A氏は「現実では得られなかった家庭の温かさを初めて知った」と語る。
3日間ほど村で過ごした後、突然現実世界の自宅玄関に戻っていたという。
実際にはほとんど時間が経過しておらず、家族にも話せなかったが、衣服の汚れや傷が“体験の痕跡”として残っていたとA氏は主張する。

■転機のたびに訪れる“もう一つの世界”
その後、A氏の家庭は離婚によって崩壊し、母方の実家で育てられることとなった。
高校卒業と同時に上京し、過酷な労働環境の中で日々を過ごしていたという。
23歳の時、再び異世界に「引き込まれた」。
A氏は当時の状況をこう語る。
「会社生活に疲れ果て、先輩に金をせびられ、暴力団とも関わるようになった。
休日に酒を飲んでいた時、突然またあの森にいたのです」。

今回は若い女性に導かれ、かつての村で3ヶ月間生活したという。
A氏は「原始的な生活の中で“生きている実感”を得た」と語るが、突然現実世界に戻され、深い喪失感に襲われたという。

■三度目の“異世界”と現実との乖離
36歳の時、A氏は結婚生活に苦しみながら地方に移住し、堅実な日々を送っていた。
しかし、妻の不在や離婚などで再び精神的に追い詰められる。
「またあの世界に行きたい」と強く願ったA氏は、夜遅く帰宅する途中で三度目の“異世界”体験をする。

村には見知らぬ少女と病に伏せる母親がいた。
A氏は「迷い込んだ」と説明し、村の長老の家に泊まることを許されたという。
やがて少女の母が亡くなり、A氏は少女の保護者役を担うことになる。
A氏は「少女が以前出会った女性や老婆と同一人物であると気づいた」と主張する。
3年間村で暮らした後、突如現実世界に戻り、外見にも大きな変化が現れた。
白髪や深い皺、日焼けといった特徴が一日で生じたため、勤務先から病院受診を勧められたという。

■現象の背景と専門家の見解
A氏は「この体験が夢なのか現実なのか、今も分からない」と語る。
心理学者の山田浩一氏（仮名）は、こうした体験について「極度のストレス下において、現実逃避の一種として“異世界体験”を語るケースは珍しくない」と指摘する。
実際にA氏のように、現実世界で深刻な困難に直面した際に、夢や幻覚として“もう一つの世界”を体験したと証言する事例は、国内外の心理臨床でも報告されている。

一方で、A氏は「体に残った傷や服の汚れなど、現実的な証拠が存在した」と主張するが、これについて山田氏は「夢遊病や解離性障害など、本人の自覚のない行動による可能性も考えられる」と分析する。

■「もう一度、異世界へ」――今後の展望
A氏は現在も「再び異世界に行きたい」と強く願っているという。
また、「最初に村を訪れた時、老婆が“夫を亡くした”と語っていた。
その夫は将来の自分なのではないか」とも語り、体験の真偽について今も葛藤を続けている。

専門家は「現実と幻想の区別が曖昧になることは、心の救済や自己防衛の一形態である」としつつ、「現実世界での支援やケアも同時に重要」と強調する。

A氏の証言は、現実と幻想の“はざま”で生きる人々の心の在り方を問いかける。
今後も同様の体験を持つ人への取材と、心理学的な分析の深化が求められるだろう。