「Tくん、今は営業部長としてバリバリ部隊を指揮しているんだ。
」
そう語る僕が、かつて最も肝を冷やしたのは、Tくんが手形10億円を持ったまま突然姿を消した、あの夜だった。
なぜなら、翌朝になってもTくんは会社に現れず、警察に捜索願を出すかどうかギリギリまで議論されていたのだ。
みんなで電話をかけまくっても、どこにも手がかりなし。
寮にも帰っていない。
あのときの社内の重苦しさは、今でも忘れられない。
話はその前日の夜に遡る。
Tくんは新人として、客先に集金へ出かけていた。
定時を過ぎても戻らない。
携帯もポケベルもない時代、連絡手段は限られていたが、とにかくみんなであらゆる場所に電話をかけた。
それでも消息はつかめず、僕たちは9時過ぎまで会社に残って安否を案じた。
なにしろ、Tくんの持つ手形の額面は10億円。
事態は洒落にならなかった。
すべての始まりは、Tくんが密かに客先の受付嬢にアプローチしていたことだった。
実は、集金の日に彼女からOKの返事をもらい、そのまま飲みに行ったらしい。
盛り上がったTくんは、しこたま飲み、電車を乗り過ごして見知らぬ駅へ。
ついには駅前の花壇で寝てしまったという。
信じられないかもしれないが、あの一夜で「こいつは大物になる」と確信した僕の予感は、見事に的中したのだった。
仕事・学校の話:消えた新人と10億円手形――営業部長Tの伝説の夜
消えた新人と10億円手形――営業部長Tの伝説の夜
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