見えない恐怖と、届かぬ想い――オフィスの片隅で

○オフィス・事務室（昼）

N：昼下がりのオフィス。
コピー機の音、キーボードの打鍵音が響く中――。

登場人物
・斎藤　大輔（26・営業課平社員・やや不器用）
・佐々木　由美（28・事務担当・おっとりした印象だが、最近浮かない顔）
・田村　和也（30・同僚・無口で存在感が薄い）

（斎藤、そっと佐々木の方を見つめている）（佐々木は書類に目を落とし、時折窓の外を見つめている）

斎藤：（心の声）…佐々木さん、最近元気ないな。

（SE：携帯のバイブ音）（斎藤、ちらりと佐々木の手元を見る。
佐々木のスマホが震えている）

（佐々木、顔をこわばらせてスマホを見る）（そっと伏せる）

○オフィス・休憩スペース（昼・ランチタイム）

（佐々木がひとりで座っていると、田村がさりげなく隣に座る）

（斎藤、少し離れた席からそれを見ている）

斎藤：（心の声）また…今日も隣か。

（間）

斎藤：（意を決して立ち上がり、佐々木の元へ歩み寄る）

斎藤：（やや明るく）佐々木さん、よかったら一緒に食べませんか？

（田村が斎藤を一瞥するも無言）（佐々木、戸惑いながらも微笑む）

佐々木：（小さな声で）…あ、はい。

（斎藤、佐々木と向き合って座る）（気まずい沈黙）

斎藤：（少し笑って）なんか、最近大変そうですよね。
無理してないですか？

（佐々木、スプーンを止めて下を向く）

佐々木：（ややかすれた声で）…大丈夫です。
心配、ありがとうございます。

（斎藤、言葉を探すように手元を見る）

（BGM：やや不穏なピアノの旋律）

○駅・改札前（夕方）

（佐々木が改札を出ようとすると、田村が柱の影から現れる）（佐々木、驚きつつも表情を隠して通り過ぎる）

（少し離れた場所で斎藤がその様子を見ている）（斎藤、眉をひそめる）

斎藤：（心の声）やっぱり…何かある。

○カフェ・夜

（斎藤、スマホを手に悩む様子）

斎藤：（心の声）…彼女の番号も、メルアドも知らない。
でも、田村は…？

（ため息をつく）（斎藤、同期の同僚に電話をかける）

斎藤：（小声で）あのさ、佐々木さんの連絡先…知ってる？いや、なんか、ちょっと心配で…。

（相手の返事に、斎藤は苦笑する）

斎藤：（落胆した声で）あ、うん。
そっか。
ありがとう。

（通話を切る）

○オフィス・廊下（翌朝）

（斎藤、出勤途中の佐々木に声をかける）

斎藤：（優しく）…何かあったら、俺でよければ、力になるから。

（佐々木、少しだけ目を見開く）（すぐに微笑んで、首を横に振る）

佐々木：（小さな声で）…大丈夫です。
本当に。

（斎藤、手を握りしめて）

斎藤：（心の声）…どうしたら、俺は彼女の力になれるんだろう。

（長い沈黙）

N：見えない不安と、届かぬ想い。
誰かのSOSは、時にとても小さな声でしか聞こえない――。

（カメラ、ゆっくりズームアウト）

（BGM：切なく静かにフェードアウト）