「本当に心配だったのは、彼女のことじゃなかった」

彼女は僕の連絡先をそっけなく拒んだ――その瞬間、僕は初めて自分が“心配”という名目で、彼女に近づきすぎていたのかもしれないと気づいた。

その少し前、僕は彼女の力になりたくて、ランチに誘ったり、帰りに駅で待ってみたりした。
しかし、彼女はなぜか遠慮がちで、本心を話そうとしない。
番号やアドレスを教えてほしいと伝手をたどったときも、返事は冷たかった。

話はさらに数日前に遡る。
職場の事務の女性が、同僚のストーカーらしき人物に困っているらしいと風の噂で知った。
ランチタイムに勝手に隣に座られたり、帰宅時に駅の改札で待ち伏せされたり、教えていないはずの携帯番号やメールアドレスまで知られているという。
僕は、彼女を守りたい一心で動き始めた――そう、思い込んでいた。

しかしすべての始まりは、「彼女の困りごとを解決したい」という僕の善意からだった。
彼女のためにと行動を重ねるうち、いつしか僕自身が彼女の“距離を詰める相手”になっていることに気づけなかったのだ。

実は、僕が心配していたのは彼女の安全だけでなく、自分が彼女の特別な存在になれないことだったのかもしれない。
あの日、そっけない返事をもらった瞬間――本当に必要だったのは、彼女の気持ちを尊重する距離感だったのだと、ようやく理解したのだった。