○幼稚園・駐車場(朝)
N:私は工務店に勤めている。
あの日、3年前の春――幼稚園のバス車庫修理に向かった。
(SE:小鳥のさえずり、遠くで子どもの笑い声)
○同・園舎前(朝)
(トラックがゆっくり止まる)
佐藤(35・工務店勤務・真面目そうな男)(静かに車から降りる)
佐藤:(トタン屋根を見上げて)(独り言)ああ、結構剥がれてるな……よし、始めるか。
(工具箱を抱え、足場へと向かう)
N:この幼稚園はお寺が経営している。
車庫は園舎の横、本堂の裏。
広場には、バスの通り道以外、コンクリートの遊具がひっそりと置かれていた。
○同・車庫前(朝)
(佐藤、足場を組み始める)
(ふとトラックを振り返る)
(SE:子どもたちのざわめき)
佐藤:(目を細めて)……おや?
(遊具の上に、10人ほどの園児たちが集まっている)
N:幼稚園や小学校で作業をしていると、子どもたちが興味津々に集まってくる。
いつもの光景だ。
(佐藤、作業を再開しようと足場に上がる)
(SE:子どもたちの声、ゆっくりと重なる)
園児たち:「らぁっきぃーーー、らぁっきぃーーー」
(舌足らずで間延びした声が響く)
佐藤:(ぎこちなく笑いながら)……ラッキー? 犬でもいるのかな。
(遊具の方を振り返る)
(SE:ピタッと声が止む)
(園児たち、何事もなかったかのように遊んでいるふりをする)
(佐藤、首をかしげて作業に戻る)
(SE:再び「らぁっきぃーーー、らぁっきぃーーー」)
佐藤:(作業の手を止める)(再び振り返る)
(声が止む)
佐藤:(苦笑しながら)(自分の手元を見つめる)
N:来る途中、犬小屋を見かけた。
犬の名前か? だが、どこにも犬の姿はない。
(佐藤、再び作業に没頭する)
(SE:園児たちの「ラッキー」コールが繰り返される)
佐藤:(困惑しつつ、10秒ごとに振り返る)
(そのたびに、声は止まり、園児たちはこちらを見ようとしない)
(カメラ、ゆっくり佐藤の背中から遊具の園児たちにズームイン)
佐藤:(心の声)(不安げに)なんなんだ、これ……。
N:振り返ると、園児たちは皆こちらから目をそらしている。
まるで、私の視線が怖いかのように。
(SE:冷たい風の音)
佐藤:(背筋を伸ばし、身震いする)
(長い沈黙)
(BGM:不穏なストリングス)
N:見ていない間だけ始まる「ラッキー」コール。
私を直視しようとしない園児たち――
(佐藤、振り返るのをためらいながら作業を進める)
(SE:チャイムの音)
○同・広場(朝)
(園児たち、一斉に遊具を飛び降りて園舎へ駆けて行く)
佐藤:(呆然と見送る)
(カメラ、佐藤の表情をアップ)
N:あの園児たちは、なぜあんなことをしていたのか――
(佐藤、静かにため息をつく)
(BGM:静かにフェードアウト)
○同・車庫前(少し後)
佐藤:(工具を片付けながら、遠くを見つめて)
N:今も、あの時の「らぁっきぃーーー」の声が、耳に残っている――
(画面、ゆっくり暗転)
不思議な話:「らぁっきぃーーー」――子どもたちの奇妙なコールに包まれて
「らぁっきぃーーー」――子どもたちの奇妙なコールに包まれて
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