振り返った瞬間、私の背中に走ったのは、言い知れぬ寒気だった。
まるで私から目を逸らすかのように、遊具の上の園児たちは誰一人こちらを見ていない。
それにもかかわらず、私が目を離した途端、あの舌足らずな「らぁっきぃーーー、らぁっきぃーーー」という声が、再び背後から響いてくるのだ。
なぜこんなにも異様な状況になったのか。
実は、その少し前から、私は妙な違和感を覚えていた。
幼稚園のバス車庫の修理作業を始めてしばらくした頃、遊具のあたりに10人ほどの園児が集まっているのに気がついた。
作業に夢中になりかけるたびに、「らぁっきぃーーー、らぁっきぃーーー」という声が背後から聞こえてくる。
しかし振り返ると、まるで何事もなかったように園児たちは遊具で遊び、私を見ようともしない。
だが、再び作業に戻るとまた「ラッキー」コールが始まり、振り返るとぴたりと止む。
それを何度も繰り返すうち、彼らの奇妙なルールに気づいた――どうも私が見ていない間だけ、その声を発しているようなのだ。
そもそもの始まりは、その日の朝8時半。
私は工務店の社員として、お寺が経営する幼稚園のバス車庫修理のため現地を訪れた。
園舎の横を抜けて本堂裏にある車庫の脇にトラックを停め、剥がれたトタン屋根の修理を始めていた。
広場には何もなく、端にコンクリート製の遊具があるだけだった。
作業現場は遊具から距離があり、子供たちが危険な目に合う心配はなかった。
幼稚園や小学校で作業していると、子供たちが集まって見物するのはよくあることだ。
私は特に気にせず、足場を作り作業を始めていた。
だが、今振り返れば、あの「ラッキー」コールには、ただの遊びとも言い切れない、妙な違和感がまとわりついていた。
園児たちは私が見ている間は絶対に声を発さず、決して私と目を合わせようとしない。
そして、始業のチャイムが鳴ると、何事もなかったかのように遊具から飛び降り、園舎へと駆け戻っていった。
なぜ彼らは、私の視線を避け、「ラッキー」を繰り返していたのか。
思い返すたび、あの背中に走った冷たい感覚の理由が、今も分からない。
ただ一つ確かなのは、あの日の園児たちの行動には、どこか人ならぬものを感じさせる、説明のつかない異質さがあったということだ。
不思議な話:「ラッキー」コールの謎――背中に走ったあの寒気の正体
「ラッキー」コールの謎――背中に走ったあの寒気の正体
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