■【起】〜静かな朝、寺の幼稚園で〜
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私は工務店に勤めており、3年前、ある幼稚園のバス車庫修理の仕事を任されました。
その幼稚園はお寺が経営しており、車庫は園舎の横を抜けた本堂裏に佇んでいました。
広場はバスが通るため何もなく、端にコンクリート製の遊具がぽつんと置かれているだけ。
朝8時半頃現場に到着し、トラックを車庫のそばに止め、剥がれたトタン屋根の修理の準備を始めました。
軒先下に足場を組み、屋根材を取りにトラックへ振り返ると、遊具のそばに十人ほどの園児が集まっていました。
■【承】〜作業現場に響く不思議なコール〜
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幼稚園や小学校で作業していると、子供たちが興味深そうに集まるのはよくあること。
遊具から車庫までは距離があり、危険もないだろうと考え、そのまま足場に上がりました。
すると背後から園児たちの声が聞こえてきます。
「らぁっきぃーーー、らぁっきぃーーー」
舌足らずで間延びしたその声は、どうやら一人ではなく、全員が揃えて発しているようでした。
何気なく振り返ると、声はピタリと止まります。
再び作業を始めると、また「らぁっきぃーーー、らぁっきぃーーー」。
来る途中に犬小屋があったのを思い出し、「ラッキー」という名の犬でも呼んでいるのかと遊具を見やると、やはり声は止まってしまいます。
周囲を見渡してみても、犬の姿はどこにもありません。
■【転】〜見えない視線と、背筋を走る違和感〜
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違和感を覚えつつ手元に目を戻すと、また「ラッキー」コールが始まります。
振り返れば止まり、作業に戻れば再開。
まるで、私が見ていない間だけ続けるという暗黙のルールがあるかのようでした。
試しに10秒ごとに振り返ってみると、やはりその通り。
繰り返すうち、私はあることに気がつきました。
振り返った時、遊具の上の園児たちは、何事もなかったかのようにあちこちに視線を泳がせ、誰一人として私を見ていません。
まるで、私から目を逸らしているかのように。
その瞬間、背筋にぞわりと冷たいものが走りました。
見ていない間だけ唱えられる「ラッキー」コールと、決して私を見ようとしない子どもたち。
その光景に、言い知れぬ異質さを感じ、私は振り返ることすら怖くなってしまいました。
■【結】〜残された謎と不安の余韻〜
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やがて始業のチャイムが鳴り響き、園児たちは遊具から飛び降りて園舎へ戻っていきました。
あの「ラッキー」コールと、私を決して見ようとしなかった園児たちの行動は一体何だったのか。
作業を終えた今も、その違和感だけが心に残り続けています。
不思議な話:園児たちの「ラッキー」コール──静寂に潜む奇妙な視線
園児たちの「ラッキー」コール──静寂に潜む奇妙な視線
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