○山中・テント内(夜)
SE:遠くで祭囃子が鳴る。
風が木々を揺らす音。
N:夜の山。
老人はテントの中で静かに横になっていた。
老人(70代・やや痩せた体型、無精髭)
(まぶたを閉じ、耳を澄ませて)
(心の声)どこかで…祭囃子? こんな山奥で?
(苦笑しながら)
(心の声)いや、きっと風が音を運んできただけだ。
SE:祭囃子が弱まっていく。
(老人、眠りに落ちる)
(フェードアウト)
○山麓・町の通り(翌朝)
SE:ざわめき。
人々の不安げな声。
N:翌朝、山を下りると町には緊張した空気が流れていた。
町の人A(30代・作業着)
(焦った様子で)
「駐在さん! あの子、まだ見つからないのか?」
駐在(50代・誠実そうな警官)
(老人に近づく)
「すみません、ちょっといいですか。
昨夜、何か変わったことは…?」
老人
(戸惑いながら)
「いえ…特には。
ただ、夜に…祭囃子みたいな音が…」
町の人B(中年女性)
「誘拐じゃないの?」「家出かも…」
町の人C(若者)
(小声で)
「いや、神隠しだって話も…」
(老人、ふと顔を曇らせる)
老人
(心の声)そういえば…祭囃子に混じって、狐みたいな鳴き声が…
(目を伏せて、何も言わず町を去る)
(画面暗転)
○列車内(昼間)
SE:列車の揺れる音
(老人、うたた寝をしている)
SE:静かな車内に、着物の裾が擦れる音。
謎の女(20代・あでやかな着物姿、涼やかな目元)
(控えめに、袖で口元を隠しながら)
「もし…」
(老人、目を覚ます。
女がそっと立っている)
謎の女
(伏し目がちに)
「これを、私の家族にお渡ししていただけますか?」
(女、小さな赤い錦の小袋を差し出す)
老人
(寝ぼけたまま、ためらいながら受け取る)
(ふと女の顔を見ると、吊り上がった目がこちらを見つめている)
老人
(身を引き、戸惑いながら)
「いや、なんで私が……困りますよ、それは」
(小袋を返そうとするが、女は身をかわす)
謎の女
(切実に、声を震わせて)
「お願いいたします…」
老人
(困惑し、声を荒げて)
「いや、無理ですって!」
謎の女
(かすかに微笑み、しかし必死に)
「お願いいたします…」
(押し問答の末、女の姿がふっと消える)
SE:一瞬の静寂
(老人、驚いて窓の外を見る。
列車は鉄橋を渡っている)
老人
(心の声)川は——渡れない…?
(老人、手の中の小袋を見つめる。
おそるおそる開けると…)
SE:ジャラッ、歯がぶつかり合う音
(老人、愕然。
歯がこぼれ落ちる)
老人
(青ざめて)
「……これは…人の歯?」
(しばし呆然とした後、小袋を慌ててポケットにしまい込む)
N:結局、処分に困った老人は、町の駐在所あてに小袋を郵送してしまった。
(フェードアウト)
○数年後・町の通り(昼)
N:数年後。
老人は再び山を訪れ、ふと町に立ち寄った。
(駐在所前で、かつての駐在と再会)
駐在
(帽子を取り、苦々しい表情で)
「覚えていますよ、あの時のこと…嫌な事件でした。
犯人から、被害者の歯が送られてきましてね…残酷でしょう」
(老人、顔色が変わる)
老人
(心の声)まさか…あの袋が…
(老人、そそくさと立ち去ろうとする)
駐在
(少し不思議そうな口調で)
「でもね、不思議なことに…ご家族がその歯を見て、なぜか妙に納得されたんですよ。
それから町の人も急に捜査に協力しなくなって…あれは何だったんでしょうね。
町中が、どこかおかしな空気になりました…」
(間)
駐在
(遠くを見つめて、静かに)
「送られてきた歯、上下の犬歯だけが抜けてたんです。
不思議でしょう?」
(老人、凍りつく)
(BGM:不穏な旋律が静かに流れ始める)
(カメラ、老人の顔をゆっくりズームイン)
N:老人は、あの夜に聞こえた祭囃子を、二度と思い出すことはなかった。
(フェードアウト)
不思議な話:消えた祭囃子と赤い錦袋〜老人が背負った記憶の闇〜
消えた祭囃子と赤い錦袋〜老人が背負った記憶の闇〜
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