○実家・リビング(夜)
N:正直なところ、私は家族に一つ、長年の厄介ごとを抱えていた。
(テーブルに座る、主人公・ミカ(20・大学生)、視線を落とす)
(兄・ユウジ(24・強面で陰険な雰囲気)、ソファで無気力に寝転がる)
ミカ:(目を伏せて、心の声)兄は昔から乱暴で、私や家族を困らせてきた。
できるだけ距離を取るしかなかった。
SE:玄関のドアが開く
○回想・実家・リビング(数年前・昼)
(父・タケシ(50代・自営業)、母・サチコ(50代・優しいが気が強い)、兄・ユウジ、ミカが集まっている)
タケシ:(怒りを抑えて)ユウジ、お前、いつまでこんな生活続けるつもりだ。
ユウジ:(不機嫌そうに睨む)
サチコ:(困ったように)お兄ちゃん、少しは考えてよ。
店にも迷惑かかるんだから。
ミカ:(苦笑しながら、心の声)家の1階が店舗、2階が住居。
長男のだらしない姿は、両親の悩みの種だった。
○不動産屋前(週末・昼)
(両親、ユウジ、ミカ。
不動産屋の担当者とやりとり)
サチコ:(笑顔で)こちらのアパートなら静かそうね。
ユウジ:(無言で荷物を運ぶ)
N:古い木造アパート。
2階の角部屋。
兄はうるさい両親と離れられ、どこかホッとしているようだった。
(カメラ、兄の後ろ姿をゆっくりズームアウト)
○アパート・ユウジの部屋(夜)
(ユウジ、ベッドに寝転ぶ。
部屋は薄暗く、古い照明が揺れる)
SE:時計の音、風で窓がカタカタ鳴る
ユウジ:(息を殺して、胸を手で押さえる)……なんだよ、これ。
(BGM:不穏な曲調に変わる)
○実家・リビング(数週間後・夜)
SE:玄関のドアが勢いよく開く
ユウジ:(苛立った様子で)……もう無理だ、あの部屋おかしい!
タケシ:(呆れて)何言ってんだ、またか。
ユウジ:(声を震わせて)夜になると、胸に何かが乗っかるんだよ。
あと彼女も来なくなったし。
サチコ:(顔をしかめて)……そんなこと、本当にあるの?
ミカ:(心の声)兄は霊感なんてないはずなのに。
両親も信じず、兄を家から追い返した。
SE:電話の着信音、何度も鳴る
N:その後も兄は電話で訴え続けたが、家族は聞く耳を持たなかった。
○アパート・廊下(夜)
(ユウジ、ゴミ袋を持って廊下に出る。
隣の部屋のドアが開く)
(隣人・オオタ(40代・無口な男性)、静かに立っている)
ユウジ:(戸惑いながら)……俺の部屋、なんか変なんですよ。
オオタ:(淡々と)そりゃあそうだよ。
前の住人、亡くなってるからね。
(ユウジ、凍りつく)
オオタ:だから家賃、半額だったでしょ。
(間。
ユウジ、呆然)
SE:心臓の鼓動音
○実家・リビング(翌日・昼)
(両親とミカ、ユウジが話し合う)
ユウジ:(必死に)本当に訳ありだったんだ!あの部屋、もう住めない!
タケシ:(ため息)……仕方ないな。
サチコ:(困ったように頷く)
N:こうして家族会議の末、再び兄の引越しが決まった。
(BGM:静かにフェードアウト)
○(画面暗転)
○数年後・ミカの新居(夜)
(ミカ(40代・大人びた表情)、ノートパソコンの前。
夫と子供の笑い声が遠くから聞こえる)
N:私は大学を卒業し、結婚して他県で暮らすようになった。
気づけば20年が過ぎていた。
SE:パソコンの起動音
ミカ:(画面を見つめて)……あの事故物件サイト、兄の部屋、載ってるかな。
(画面に炎のマークが現れる)
N:兄が住んでいた部屋――家庭内暴力の果て、悲しい事件が起きていた。
その痛ましい記録が、今も地図の上に刻まれている。
ミカ:(声を詰まらせて)……本当だったんだ。
(BGM:切なく静かな音楽)
○回想・アパート・ユウジの部屋(過去)
(兄とミカ、部屋で会話)
ユウジ:(苦笑いで)不思議なんだよ、彼女が来るとすぐ帰るし空気が重い。
でも、Aが来ると空気が変わるんだ。
ミカ:(頷く)
N:Aさん――兄の数少ない友人。
普通すぎるくらい穏やかな人だった。
でも、今ならわかる。
誰かを癒す力を持つ人もいるのかもしれない。
○ミカの新居・リビング(夜・現在)
ミカ:(遠くを見つめて)「相性」って、人だけじゃないんだね……
(間)
N:兄はその後、精神を病み、入退院を繰り返している。
あの部屋と関係があったのかどうか、私にはわからない。
(BGM:フェードアウト)
○エンディング・ミカの独白(窓辺)
ミカ:(ゆっくりと、静かに)家族も、住む場所も、人も。
心の中に、何かを棲まわせているのかもしれない。
今はただ、誰かが少しでも穏やかでいられる場所が、どこかにあることを願う。
(カメラ、窓の外の静かな夜景を映す)
(画面暗転)
怖い話:「心の隙間に棲むもの ~兄と事故物件、20年越しの記憶~」
「心の隙間に棲むもの ~兄と事故物件、20年越しの記憶~」
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