兄が住んでいたアパートの部屋は、かつて家庭内暴力を繰り返す息子を父親が殺害し、その父親も後に自殺した、いわく付きの事故物件だった――。
某事故物件サイトの地図に浮かぶ炎のアイコンと共に、その事実を私は20年越しに知ることになった。
なぜ今さらそんなことが分かったのか。
そのきっかけは、ふとネットで話題になった事故物件サイトを目にしたことだった。
「あの時、兄が話していたことは本当だったのだろうか?」そんな疑問が頭をよぎり、私は画面上の地図をスクロールした。
地方都市の中に、兄が住んだあのアパートが確かにあった。
説明文には、かつての事件の断片的な事実が記されていた。
話は20年以上前、私がまだ大学生だった頃に遡る。
兄は4歳年上で、子供の頃から乱暴かつ陰湿な性格だった。
家族中が兄の態度に悩まされ、私自身もできる限り距離を置いていた。
そんな兄が、大学受験に失敗し続け、バイトもすぐ辞めるような生活を送っていたある日、両親は「家の外聞が悪い」として、兄を市内のアパートへと引っ越しさせることにした。
新しい部屋は、古い木造2階建ての2階角部屋。
風呂・トイレ付きの2Kで、一人暮らしには十分だった。
兄は家族の前では何も言わなかったが、両親や私にとっても「これで少しは平穏になる」とほっとしたのを覚えている。
しかし、引っ越して1ヶ月ほど経った頃、兄は突然実家に戻り、「あの部屋は何かおかしい。
引越したい」と訴えた。
夜になると胸に何かがのしかかり、彼女も部屋に来なくなったという。
霊感のない兄がそんなことを言い出したので、両親も私も呆れていた。
父は「バカなことを言うな」と一蹴し、兄の訴えを取り合わなかった。
それでも兄は諦めず、ある晩、ゴミ捨ての際に隣室の住人と顔を合わせた。
その男性は10年以上アパートに住んでいたが、早朝出勤だったため今まで会う機会がなかったという。
兄が「俺の部屋、なんか変なんですよ」と切り出すと、「そりゃあそうだよ。
人が亡くなった部屋だもん」と返されたのだ。
さらに「だから家賃が半分なんでしょう」と言われ、実際その通りだったことから兄はようやく両親を説得、再度引越しが認められた。
それから月日は流れ、私も結婚して実家を離れ、兄とも疎遠になった。
事故物件サイトで知った事実に、ようやくあの時の出来事の意味を実感したのだった。
思い返せば、兄は「あの部屋にいると彼女はすぐに帰るし空気が重い。
でも、Aが来ると空気が変わる」と言っていた。
Aさんは兄の数少ない友人で、家族思いの穏やかな人だった。
今思うと、兄はその部屋にいた“何か”を刺激する存在だったのかもしれない。
Aさんのような穏やかな人だけが、部屋の空気を和らげていたのだろうか。
人と人の「相性」以上に、場所や“何か”との相性も確かに存在するのかもしれない。
余談だが、兄はその後精神を病み、入退院を繰り返している。
曰く付きのアパートでの体験が関係しているのか、それとも元々の性格ゆえなのか――その答えだけは、今も分からないままだ。
怖い話:「兄が住んでいた部屋の真実――逆転の事故物件」
「兄が住んでいた部屋の真実――逆転の事故物件」
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