■【起】〜家族の中の厄介者、兄の存在〜
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私には、どうしても距離を置かざるを得ない身内がいます。
それは4歳年上の兄。
子どもの頃から乱暴で陰険、気分屋で、家族を困らせる存在でした。
私や両親は彼の暴力や嫌がらせに悩み、内心では不満を募らせながら、できるだけ関わらずに過ごしてきました。
そんな兄が家にいることで、家族にとっても実家の自営業にも悪い影響が出始めました。
両親は、家の1階が店舗ということもあり、長男が家にゴロゴロしている様子をお客さんに見られるのを恥じていました。
そこで、兄を自立させるため、市内のアパートで一人暮らしをさせることにしたのです。
週末に家族で不動産屋を回り、兄の新しい住まいが決まりました。
古い木造アパートの2階角部屋。
兄は文句も言わず、荷物をまとめて引っ越していきました。
私たち家族は、密かに「これで少しは心が休まる」と胸をなでおろしていました。
■【承】〜不可解な異変と、兄の訴え〜
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ところが、引越しから1ヶ月もしないうちに、兄が実家に戻ってきました。
「あの部屋は何かおかしい。
引越したい。
」
兄は普段、神経が図太いはずなのに、夜になると胸に何かがのしかかるような感覚に襲われ、彼女も部屋に寄り付かなくなったと訴えます。
両親は呆れ、父は「馬鹿なことを言うな」と兄を追い返しました。
その後も兄は何度も電話で同じ話を繰り返し、両親は次第に相手にしなくなりました。
しかしある日、兄が実家で両親と長く話し込む機会がありました。
きっかけは、兄が夜にゴミ出しをした際、隣人と顔を合わせたこと。
その男性は10年以上住んでいるものの、早朝勤務で兄と会うことはほとんどなかったそうです。
兄が部屋の異変について話すと、隣人は言いました。
「そりゃあそうだよ。
人が亡くなった部屋だもん。
」
さらに、「だから家賃が半分なんでしょ」と続けます。
実際、両親が払っている家賃は隣人の半分でした。
昔のこともあり、両親は事故物件の告知義務など知りませんでした。
家族会議の末、両親は再び兄の引越しを認めることになりました。
■【転】〜20年後の再発見、封じ込められた真実〜
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時は流れ、私は大学卒業後に結婚し、他県で家庭を築きました。
慣れない土地での日々に追われ、あっという間に20年が経ちました。
ある日、メディアで話題になっていた事故物件サイトを目にし、ふと兄のあの部屋を思い出します。
「あの時、兄の言っていたことは本当だったのだろうか?」と気になり、パソコンで実家のある地域を調べてみました。
そこには、炎のマークがひとつ。
兄が住んでいたあの部屋は、家庭内暴力を繰り返す息子が父親に殺害され、父も自殺したという、重い過去を持つ曰く付き物件であることが判明したのです。
思い返せば、兄は「あの部屋にいると彼女はすぐに帰るし、空気重いし最悪。
でも、Aが来ると空気が変わるんだ」と話していました。
Aさんは兄の数少ない友人。
穏やかな雰囲気の持ち主で、家族仲も良い人でした。
今にして思えば、兄はその部屋にいた“何者か”の神経を逆なでする存在で、Aさんは癒しを与える相手だったのかもしれません。
人間同士の相性だけでなく、目に見えない何かとの相性も、確かにあるのかもしれません。
■【結】〜心のどこかに残る不安と余韻〜
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その後、兄は精神を病み、入退院を繰り返すようになりました。
曰く付きアパートでの体験と因果関係があるのかは、今でも私にはわかりません。
ただ、20年経った今も、家族の心のどこかにあの出来事の影が残り続けています。
目に見える現実だけでは説明できない「相性」や「気配」というものが、この世には確かに存在するのかもしれません。
怖い話:「厄介な兄」と曰く付きアパート――家族に残る不穏な記憶
「厄介な兄」と曰く付きアパート――家族に残る不穏な記憶
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