「どんぐりの暗証番号〜銀行窓口に舞い降りた小さな奇跡〜」

○地方銀行・窓口（午後）

N：静かな午後、地方銀行の窓口に、小さな奇跡が訪れようとしていた。

（SE：ドアが開く音）

（カウンターで作業する行員たちのざわめき）

○同・窓口カウンター前

【登場人物】
佐藤　美咲（28・銀行窓口係、穏やかで親しみやすい）
山田　和子（78・小柄で優しげなおばあちゃん、やや緊張気味）

（和子がゆっくりと歩み寄る。
手には古びたカバン）

佐藤：
「こんにちは。
ご用件をお伺いしてもよろしいですか？」

和子：（おずおずと）
「あの、新しい口座を作りたいんですけど…」

佐藤：（にこやかに）
「かしこまりました。
では、こちらの用紙にご記入をお願いしますね。
」

（和子、ペンを取り、用紙に名前や住所を記入し始める）

佐藤：（声を優しく）
「それと、4桁の暗証番号もご自身でお決めいただけますか？」

（和子、ペンを持ったまま固まる）

（間）

和子：（困ったように、眉をひそめて）
「そ、そんなに急に言われてもねぇ…どうしましょう…」

佐藤：（苦笑しながら）
「大丈夫ですよ。
焦らなくて。
もしよろしければ、明日またお越しいただいても…」

和子：（ほっとした様子で微笑む）
「ありがとうね。
じゃあ、ちょっと考えてみるわ。
」

（和子、礼をしてゆっくりと銀行を後にする）

（SE：ドアが閉まる音）

○和子の自宅・居間（夜）

（和子、ちゃぶ台にペンと紙を置いて悩んでいる）

和子：（心の声、深く考え込んで）
「4つの数字か…何がいいかねぇ…忘れないのがいいんだけど…」

（SE：時計の針の音）

（和子、ふと窓の外に目をやる。
庭にどんぐりが転がっているのが見える）

和子：（小さく微笑みながら）
「どんぐり…か。
かわいいし、忘れないかもね。
」

（カメラ、和子の優しい表情にズームイン）

○翌日・銀行窓口（午前）

（SE：ドアが開く音）

佐藤：（カウンターで書類を整理していたが、顔を上げる）
「おはようございます！」

和子：（嬉しそうに、申し込み用紙を差し出す）
「昨日の続き、持ってきたよ。
」

佐藤：（用紙を受け取り、暗証番号記入欄を確認）

（佐藤、目を丸くして）（間）

佐藤：（戸惑いつつも、そっと微笑んで）
「あの…これは…『ど・ん・ぐ・り』…ですか？」

和子：（誇らしげに、にっこり）
「うん。
どんぐり。
4つだから、ちょうどいいと思って。
」

佐藤：（一瞬、笑いをこらえて）（優しく頷く）
「素敵ですね…数字に変換しておきますね。
」

（その場の空気がふっと和む）

N：
銀行の窓口で生まれた、小さな優しさとユーモア。

その日、佐藤は心の中で、そっと笑顔を浮かべたという。

（BGM：優しく温かなメロディが流れる）

（画面フェードアウト）