仕事・学校の話:「顔のない黒い影」が僕を追う理由――逆さまに辿る夜勤怪異録

「顔のない黒い影」が僕を追う理由――逆さまに辿る夜勤怪異録

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「―ない……ない……」
その声がまた、家の周りから聞こえてくる。
首から上のない血まみれの“何か”が、暗闇の中をうろついているのだ。

顔のない「アイツ」のうめき声は、いったいどこから響いているのだろう――。

それ以来、僕はコンビニを辞めた。
あの夜勤の仕事場で体験した恐怖は、今も僕を離さない。
あの日を境に、黒い影は職場から僕の家までついてきてしまったのだ。

すべては、あのバックヤードでの遭遇から始まった。

その夜、いつものように店内は静まり返り、客の足音もなかった。
だが、今日は違和感があった。
「アイツ」は、いつものように外をうろつくのではなく、いつの間にかバックヤードに侵入していたのだ。

僕は従業員専用の出入り口をそっと開け、暗い倉庫へ忍びこんだ。
そこには猫背で真っ黒、すすにまみれた人間とは思えない姿が、ダンボールの山をかき分けながら何かを必死に探していた。

「―ない……ない……」
そのつぶやきが、静寂を切り裂く。
黒い影はゆっくりとこちらに顔を向けた――いや、顔はなかった。
ただ、切断された首の断面から血が滴っている。

「顔は……どこだ……」
その瞬間、僕は電気をつけると、振り返らずに店内へ逃げ出した。

あの夜の恐怖が始まったきっかけは、ほんの些細な違和感だった。

店の周囲で、夜な夜な黒い影が徘徊するようになったのは数日前からだ。
誰なのか、何歳くらいなのかも分からず、ただ真夜中になると決まって店の外を歩き回っていた。
万引きの下見かと警戒していたが、まさかあんな形で対峙することになるとは思わなかった。

そもそもの発端は、僕が気楽さを理由に始めたコンビニ夜勤だった。

家から自転車で20分、駅からも遠い静かなチェーンの店舗。
深夜はほとんど人が来ず、品出しに専念できるこの仕事が僕は好きだった。

だが、安穏とした夜勤の日々の裏で、知らないうちに「アイツ」は僕の生活に忍び寄っていたのだ。

顔を失った黒い影は、今も「ない……ない……」と何かを探し続けている。

―僕の顔を、求めているのだろうか。

その理由を知る者は、まだ僕しかいない。
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