○駅・ホーム(昼)
(人混みで賑わう駅のホーム。
カラフルな電車が行き交う)
SE:アナウンスの声、電車の発着音、人々のざわめき
N:小学校低学年の頃。
あの日、私は母に手を引かれ、遠くの親戚を訪ねるため、駅にいた。
(母・40代前半・やさしげな女性、しっかりと少女の手を握る)
母:(微笑んで)ほら、迷子にならないように、ちゃんと手を繋いでてね。
少女(主人公・7歳・好奇心旺盛な表情):うん……(しかし、目は色とりどりの電車に釘付け)
(少女、母の手をそっと離し、人混みに押し流される)
SE:人々の足音、遠ざかる母の声
N:私は母の手を離し、気づけば人の流れに乗っていた。
(少女、振り返る。
母の姿は人波にかき消され、遠く小さくなる)
少女:(心の声)(不思議と冷静に)あれ、どこに行っちゃったんだろう……。
(少女、黄色い安全線の上に立ち、反対側のホームをぼんやりと見つめる)
(カメラ、少女の視線の先へパンする。
反対側のホーム、仲睦まじい親子がいる)
N:そこには、見知らぬ親子がいた。
(小柄な女性・水色のコート、幼い女の子・制服姿。
手をつなぎ微笑み合う)
少女:(心の声)(なぜか懐かしさを感じて)初めて見るのに……なんだろう、この感じ。
SE:電車の接近音
(白と青の電車がホームに滑り込む。
親子の姿が消えそうになる)
(カメラ、親子のほうへズーム。
電車が親子を遮る)
SE:電車のブレーキ音
N:電車が親子を隠した、その瞬間——。
(白と青のコントラストが煙のように消える)
少女:(目を見開いて)(凍りつく)
SE:静寂
N:電車が、透明になった。
(電車の車体が透けて見え、乗客が宙に浮いているように見える)
SE:ドアが開く音
(人々が降り始める)
少女:(ただ呆然と)(手を握りしめて見つめる)
N:私は、何も考えられなかった。
ただ、眺めていた。
(親子が電車に乗り込もうとする)
(すると、電車が突然、横方向にぐんと動き、少女のほうへ近づいてくる)
SE:電車の移動音
少女:(息を呑む)(後ずさりするが、黄色い線の上に立ったまま)
N:電車と私の距離は、1メートルもなかった。
(少女、目を凝らす。
女の子の顔が自分とそっくりであることに気づく)
少女:(声を震わせて)……あれ、私?
(女の子、微かに微笑み、同じ場所に目立つほくろがある)
N:その子は、私と同じ制服を着て、同じ場所にほくろがあった。
SE:電車発車のベル
(電車が何事もなかったかのように発車し、親子も消える)
(数秒の沈黙)
SE:母の呼ぶ声
母:(焦った声で)○○!(少女の名前を呼ぶ)
(母が駆け寄り、少女を強く抱きしめる)
母:(涙ぐんで)もう、どこ行ってたの……!
少女:(ぼんやりと)……ごめんね。
(カメラ、少女の顔をアップ。
どこか現実感のない表情)
N:あれは、白昼夢だったのかもしれない。
母を見失った寂しさが、私に幻を見せたのかもしれない。
(少女、自分の制服の胸元をそっと触れる)
N:でも、思い出すたび、少し怖くなる。
(カメラ、ゆっくり少女の手元を映す)
N:あの子の服は、私が通っていた幼稚園の制服だった。
そして、同じ場所に、同じほくろがあった——。
(BGM:静かに、不穏な旋律が流れ始める)
(画面フェードアウト)
不思議な話:母の手を離した日 〜消えた親子のホーム〜
母の手を離した日 〜消えた親子のホーム〜
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