「兄が父として育てた30年」偽りの家族、結婚式で明かされた真実

兄が「父」となり育てた妹の結婚式――家族の絆と葛藤の30年

■結婚式で明かされた家族の真実
2024年6月上旬、東京都内で行われたある女性の結婚式で、参列者の間に静かな驚きが広がった。
新婦が感謝の手紙で「お父さん、ありがとう」と語った後、続けて「お兄ちゃん」と呼びかけたためだ。
彼女は自らの出生の秘密――父と信じてきた人物が実は兄であること――を全て知っていたのである。

■兄が「父」になった理由
この家族の物語は、30年以上前にさかのぼる。
1980年代後半、当時21歳だったAさん（仮名）は、交通事故で両親を一度に失った。
残された幼い妹を前に、Aさんは「妹を自分の娘として育てる」という決断を下した。
Aさんによれば、「片親でも、家族として育てた方が妹のためになる」と判断したという。

一方、Aさんの友人であるB氏（仮名）は、当時Aさんから相談を受けたと話す。
B氏は「21歳で片親になるのは無理がある」「母親についてどう説明するのか」と反対したが、Aさんは「祖父も病気で亡くしており、親戚に預けるのは避けたかった」と明かす。
Aさんは「辛い時、妹の笑顔に救われた。
自分の幸せは二の次で構わない」と話し、周囲の反対を押し切った。

■30年間隠された事実
以後、Aさんは仕事と家事、育児を一手に引き受けた。
B氏も「何か手伝えることはないか」と声をかけたが、酒を酌み交わし話を聞くことしかできなかったという。
新婦は兄が父であることを知らずに成長したと見られていたが、実際には高校時代、書斎で見つけた日記をきっかけに真実を知ったとされる。

結婚式当日、新婦は「兄の人生を狂わせてしまった」と謝罪したが、Aさんは「それは違う。
お前が大きく育ってくれた、それだけで十分だ」と応じた。
会場は静かな感動に包まれ、式は滞りなく終了した。

■家族のあり方を問う
取材に応じたB氏は「Aさんがここまでやり遂げるとは正直思わなかった。
家族の形は一つではないと実感した」と話す。
Aさん本人は「今は孫の誕生を楽しみにしている」と笑顔を見せた。

■今後の展望と専門家の見解
家族社会学が専門の田中美和子氏（東京家族研究所）は、「血縁や戸籍にとらわれない家族の在り方が、少子化や多様化する社会の中で今後ますます重要になる」と指摘する。
「生き方や家族の絆は、必ずしも伝統的な形に限らない」と語る田中氏の見解は、Aさん一家の事例にも当てはまるだろう。

この物語は、家族の意味や絆の在り方について改めて考えさせるものとなった。
今後も多様な家族の姿が社会に受け入れられるには、どのような支援が必要だろうか――読者自身の身近な家族を見つめ直すきっかけとなるのではないか。