留守番電話に繰り返し届く“謎の声”　背景に浮かび上がる職場のストレス

引っ越し直後の住民に、不可解な留守番電話メッセージが繰り返し届く――。
2023年春、都内の住宅で起きた一件を取材した。

■奇妙なメッセージの正体を追う

新生活を始めたばかりのAさん（仮名）は、引っ越し直後から定期的に「奇妙な留守電」が入っていることに気づいた。
録音されたのは、「あーあ、嫌だ嫌だ…やることいっぱいあるのに…何で私ばっかり…」という女性の独り言。
背景には人の多い場所のざわめきが響き、声はどこか暗く沈んでいた。

Aさんによると、「当時はナンバーディスプレイの普及前で、発信元を特定することはできなかった。
数日に1、2回の頻度で、毎回不安な気持ちになった」と話す。

■誤送信と判明した経緯

転機が訪れたのは、ある日新たな留守電が入った時だった。
「こちら○○コールセンターの者です。
先日間違ってそちら様の留守電へ吹き込んでしまいました。
申し訳ございません」という謝罪のメッセージだった。

Aさんは「一瞬で謎が解けた気がした」と振り返る。
おそらく、どこかの電話オペレーターが誤操作によりAさん宅につながり、留守電であることに気づかないまま日常のつぶやきを残していたとみられる。

■電話応対業務に潜むストレス

コールセンター業界に詳しい産業カウンセラーの田中美和氏は、「電話オペレーターは常に多忙な現場で業務に追われている。
感情を抑えて顧客対応する一方、バックヤードではストレスが溜まりやすく、独り言や愚痴も出やすい」と指摘する。

今回の事例は、偶然にもそうした職場の一端が一般家庭に“漏れ出た”形だ。
田中氏は「業務量の多さや人間関係の悩みは、メンタルヘルスの観点からも深刻な課題」と警鐘を鳴らす。

■プライバシーと働き方の課題

このケースは、誤送信によるプライバシー侵害と、現代の働き方の問題を同時に浮き彫りにした。
Aさんは「怖さもあったが、声の主の苦労に同情もした」と語る。

今後、コールセンター業界では誤送信の防止策はもちろん、従業員のストレスケアや働き方改革の重要性が一層高まるとみられる。
専門家は「技術対策だけでなく、現場の声に耳を傾け、健全な労働環境の構築が求められる」と強調している。

読者の皆さんも、日常のちょっとした違和感から現代社会の課題に目を向けてみてはいかがだろうか。