切ない話:静寂の家に残された記憶と、夢に咲くぬくもり

静寂の家に残された記憶と、夢に咲くぬくもり

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■【起】〜突然の喪失、崩れ落ちた日常〜
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嫁と娘が一ヶ月前、突然この世を去った。
出張先の根室でその知らせを受け、慌てて帰路についたのだが、どうやって帰ったのかほとんど覚えていない。

病院の霊安室で、包帯で覆われたふたりの姿を前に、現実感のないまま立ち尽くしていた。
娘も全身が包帯でぐるぐる巻きだったと聞かされ、葬式の前に火葬が行われたことすら、事態の重さを際立たせていた。

■【承】〜形見と沈黙、日々に浮かぶ面影〜
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密葬だったため葬式も静かで、記憶は断片的だ。
親戚以外ほとんど参列者はいなかったが、幼稚園の先生や嫁の職場の上司が骨壷の前で涙を流してくれた。
ただ、自分は涙を流すことができなかった。

葬式が終わり家に戻ると、干しっぱなしの洗濯物、作り置きのお菓子、点けっぱなしのPC――無人の部屋に、ふたりの不在が静かに浸透していた。
夜も朝も、ひとりきり。
仕事に行く気力もなく、ふたりの持ち物を整理し始めると、嫁と娘の姿や声が次々と思い出され、二度と会えない現実が胸に迫る。
三日間、泣き続けて過ごした。

■【転】〜夢の中の再会と、拭えぬ喪失感〜
───────

自殺を考えた。
しかし結局、それもできなかった。
毎朝見る夢の中で、嫁は決まって「頑張ってね」と送り出してくれる。
俺は娘にチュウをして、嫁にもキスをして仕事に向かうのだが、突然見知らぬ誰かに「もう居ないんだよ」と告げられて目が覚める。
眠れない。
いや、眠るとまた夢で「チュウしていないんだよ」と責められ、目を覚ます。

体がだるいとき、嫁はぬるめの白湯とビタミン剤を用意してくれた。
肩が凝れば一所懸命に揉んでくれた。
出張先でのハスカップや焼き鳥弁当の話を伝えたかった。
帰るときには蟹やエビ、ホタテ、昆布を土産に、娘にはまりもっこりを買う約束もしていた。
送れなかった道の駅「スワン」からの写真も、今はそのままだ。

■【結】〜時の流れの中で、消えぬぬくもり〜
───────

娘の小さな布団は敷きっぱなしで、嫁のカーディガンは椅子に掛けられたまま。
周囲の人は「時間が解決する」と言うが、本当にそうなのだろうか。
乗り越えた人は超人なのかもしれない。
少なくとも今の自分には、それはあまりにも遠い道に思える。

それでも、夢の中で「頑張ってね」と声をかけてくれるふたりのぬくもりだけが、自分をかろうじて今日へと繋ぎとめている。
読了
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