卒業の日、あなたに伝えたいこと〜最後の教室で流れた涙〜

○高校・視聴覚室（夕方）

（窓から差し込む柔らかな夕日。
卒業式直後のざわめきが静かに消えていく）

登場人物
・山本先生（40代・厳しくも温かい教師）
・三年生生徒たち（制服姿・緊張と興奮が入り混じる）
・保護者たち（普段着、少しよそ行きの表情）

（教室には生徒と保護者が整然と並ぶ。
生徒は正座し、保護者の隣に座る）

SE：椅子のきしむ音、微かな鼻をすする音

山本先生：（静かに前に立つ）

山本先生：（穏やかな声で）
「みなさん、目を閉じてください。
」

（生徒たち、戸惑いながらも目を閉じる。
保護者も静かに見守る）

山本先生：（静かに、しかし一言一言噛みしめるように）
「これまでの人生で、お父さんやお母さんに、どれだけ心配をかけてきたでしょうか。
…思い出してみてください。
」

（BGM：ゆっくりと切ないピアノが流れ始める）

山本先生：
「交通事故、親子喧嘩、学校のこと……どれほどの負担をかけてきたか、少しだけ振り返ってみてください。
」

（生徒の中には、目を閉じたまま肩を震わせる者もいる）

SE：嗚咽、鼻をすする音

山本先生：（声を震わせて）
「君たちが無事に高校生活を送れたのは、ご両親が一生懸命働き、たくさんのお金と時間、愛情を注いでくれたからです。
」

（カメラ、保護者の手元に寄る。
手には皺や小さな傷跡）

山本先生：
「もちろん、先生たちにも感謝してほしい。
でも……まずは、親に感謝してください。
」

（間。
生徒たち、目を伏せたまま涙を流す者も）

山本先生：（少し間を置いて、優しく）
「本当に心から感謝しているなら……今、隣にいるお父さん、お母さんの手を握ってみてください。
」

（生徒たち、ゆっくりと手を伸ばし、保護者の手を握る）

SE：手と手が触れ合う微かな衣擦れ音

（カメラ、手を握る瞬間をクローズアップ。
保護者も涙ぐむ）

山本先生：（強く、しかし優しく）
「この手が、あなたたちを愛し、育て、守ってきた手です。
絶対に、そのことを忘れないでください。
」

（教室中に嗚咽と涙。
静かながらも深い感動の空気）

山本先生：
「今、もう一度、その手をしっかり握って……心からの『ありがとう』を伝えてください。
」

（生徒、声にならない「ありがとう」。
保護者、そっと子を抱きしめる）

SE：静かな嗚咽、涙をぬぐう音

（カメラ、ゆっくりと全景に引く）

山本先生：（少し熱っぽく、しかし優しい表情で）
「……目を開けてください。
」

（生徒たち、ゆっくり目を開ける。
保護者と目が合い、頷き合う親子）

山本先生：
「この授業が伝えたかったのは……親への感謝と、尊敬の気持ちです。
これで、私の最後の授業を終わります。
」

（長い沈黙。
誰もすぐには立ち上がれない）

○視聴覚室・出口付近（続き）

（生徒と保護者が、涙を拭いながら出口へ向かう。
親子が自然と抱き合っている）

SE：控えめな拍手、すすり泣き

N：
「この最後の教室が、彼らにとって“卒業式以上”の意味となることを、私は願っている。
」

（BGM：静かにフェードアウト）

（画面暗転）