新人女性の衝撃的な出勤、白昼の歯科医局に走った波紋と、その日常が崩れる瞬間

あの日の朝、湿度を帯びた夏の空気が、医院のガラス扉越しにじっとりと室内へと染み込んでいた。
診療前の静かな時間帯、まだどこか眠たげな蛍光灯の下で、私はいつものようにカルテ整理に没頭していた。
周囲には消毒薬と歯科用樹脂がかすかに混じる、独特の化学臭。
カチカチと時計の針が刻む音と、遠くからかすかに聞こえてくる歯を削るタービンの予行音だけが、静寂を破っていた。

そんな時、ガラガラッと自動ドアが開き、強い朝日が一筋、床を照らした。
その光の中に、私たちの目を疑わせるような姿の新人女性が立っていた。
彼女は、入局してまだ一週間ほどの、どこか初々しさと緊張をまとった女性だった。
その日はまるでリゾート地の海辺を歩くかのような、鮮やかなビキニのトップス姿。
肌に食い込む紺碧の布地と、日に焼けて赤く火照った肩。
下は色落ちしたデニムのショートパンツで、素足を無防備に晒している。
その姿が、白衣とマスクが支配するこの空間で、異質なまでに際立っていた。

一瞬、医局内の空気が凍りつく。
視線は皆、彼女の全身へと吸い寄せられる。
受付近くの先輩歯科衛生士が、思わず手にしていたファイルを取り落とし、パタンと乾いた音が響いた。
誰もが声を失い、小さな吐息と、緊張で喉が鳴る音が聞こえる気がした。
私は、心臓が一拍遅れて強く脈打つのを感じ、手のひらに嫌な汗が滲む。
部屋の空気が急に重くなったようで、息を吸い込むたびに、消毒薬の匂いがやけに強く鼻腔を刺した。

「おはようございます……」
彼女は、どこか居心地悪そうに、しかし開き直ったような笑みを浮かべて挨拶した。
その声は普段よりもわずかに高く、震えているようにも聞こえた。
彼女の目は、私たち一人ひとりの顔を一瞬ずつ見てから、床に泳いだ。
肌は昨日よりも確実に濃い褐色に焼けていて、鎖骨のあたりに新しい日焼けの境界線がくっきりと浮かんでいた。
前日までの彼女の白い肌を思い出し、私は小さな違和感が膨らんでいくのを感じた。

「突然、洗濯機が壊れちゃって……着るものがなくて」
彼女は弁解するように、消え入りそうな声で言った。
だが、彼女の髪にはまだ潮の香りが微かに残っていた。
どこかしら砂っぽい、夏の海の匂い。
私は、その匂いに混じる微かな日焼け止めクリームの甘さをも感じ取った。
彼女の眼差しは、どこか後ろめたさと、開き直った強情さが交錯していた。
あるいは、現実から目を背けたいという無意識の衝動が、彼女の心の奥底で渦巻いていたのかもしれない。

その瞬間、医局内にさざ波のようなざわめきが広がった。
誰かが小さく吹き出すのが聞こえ、それが伝染するように、抑えきれない笑い声が次々と漏れ出す。
その笑いには、驚きや戸惑い、そして一種の緊張の解放が入り混じっていた。
ある先輩スタッフは、呆れたように眉をひそめながらも、口元を隠して笑いをこらえていた。
私は、目の前の現実が信じられず、どこか夢の中にいるような感覚に包まれていた。

そして、その日、彼女の行動は即座に院長に知らされ、静かな面談室へと呼び出されることとなった。
彼女は、無言でうつむき、深く息を吐いていた。
彼女の肩が小さく震えるのを、私は遠くから見ていた。
きっと彼女も、この場に自分がふさわしくないことを痛いほど感じていたのだろう。
短い言葉のやりとりののち、彼女は自ら退職を申し出た。

夕方、彼女が去った後の医局には、海の匂いも、笑い声も、もう残っていなかった。
ただ、あの朝の強烈な違和感だけが、壁や床にじんわりと染み込んでいて――私はしばらく、彼女の残した余韻を、無言でかみしめていた。