涙あふれるビデオテープの正体──父が隠していた25年の愛

涙が止まらなかった、あの瞬間。
結婚式の会場に母親の面影が現れたのだ。
新婦・明子は、初めて目にする母の姿に、ただ静かに涙した。
場内にいた誰もが、その映像と父娘の姿に心を打たれ、感動で包まれていた。

しかし、その3分前まで、誰もこの奇跡を予想していなかった。
新婦の父はスピーチの途中で「私には、お前に渡したいものがある」とだけ告げ、古びた箱を取り出した。
その中から手渡されたのは一本のビデオテープ。
会場は一気に静まり返る。
父がプレーヤーにテープを入れた瞬間、空気が張り詰めた。

さらに時を戻してみよう。
披露宴は終盤、新婦の父のスピーチが始まったばかりだった。
父親は「明子。
お前が生まれた時、お母さんは病気で亡くなった」と淡々と語りかける。
母親を知らないまま育った娘への想い、家事をよく手伝い手のかからない子だったこと、そして「今日、素敵な人と結婚するお前を見て、お母さんもきっと喜んでいる」と静かに言葉を重ねていく。

話はさらに25年前に遡る。
明子が生まれたその日、母親は病院のベッドで娘をしっかりと抱きしめていた。
その幸せそうな姿を、父親はビデオカメラで記録していた。
しかし母は、明子が物心つく前に病気で亡くなり、その映像は長らく父の胸の内に秘められていたのだ。

誰も知らなかった父の想い。
母親の愛情とともに、父自身もまたその25年を静かに娘に捧げてきた。
あのビデオテープは、父がずっと守ってきた、母から娘への最後の贈り物。
そしてその瞬間、明子は父の深い愛情に初めて気づくのだった。