涙が止まらなかった。
ママとパパが迎えに来たその日、甥っ子は「まま!」と何度も叫びながら、目を輝かせて駆け寄っていった。
小さな体で全力で親に抱きつくその姿を、私たちはただ静かに見守るしかなかった。
あたたかな幸せの光景に、家族全員が言葉を失い、目頭を熱くした。
しかし、その感動の瞬間まで、誰も本当の彼の思いに気付いていなかったのだ。
一ヶ月もの間、甥っ子は母親の入院で私たち家族と暮らしていた。
普段からよく遊びに来ていたので、昼間はじいじやばあば、私とも元気いっぱいに過ごし、時にはみんなで外食も楽しんだ。
夜は「じいじと寝る」「ばあばと寝る」と、その日ごとに布団を選び、無邪気な笑顔を見せてくれていた。
「ままは、びょうき なおったかなぁ〜」
そんな言葉も時おり口にしたが、「寂しい?」と聞けば「ううん、だいじょうぶ!」と元気よく答える。
私たちは「子どもなりに気をつかっているんだよね」と話しながら、それでも彼が寂しさを見せないことに、どこか胸を痛めていた。
だが、妹の入院から十日ほど経ったある夜、事態は動き始める。
「きょうは、おねえちゃんと ねる〜」
そう言って私の布団に入ってきた甥っ子が、ぽつりとつぶやいた。
「おねえちゃん、ぼく、あした おうちに かえるね。
しばらく かえってないからね」
妹の退院はまだ見えず、帰れないはずなのに…。
私は戸惑いつつも、「そうだね、そのうちおうちに帰ろうね」と優しく返した。
その日から彼は、昼間は何事もなかったように元気に遊び、夜になると私の布団に入っては、毎晩同じ言葉を繰り返す。
「おねえちゃん、ぼく、あした かえるね」
私は胸が締め付けられる思いだった。
――この子は、本当はずっと、がまんしてるんだ。
ずっと、ママに会いたいんだ。
そしてある晩、私は思い切って「明日になったら、ママに会いに行こうか」と声をかけた。
すると甥っ子は、少しだけ笑って、こう言った。
「おねえちゃん……あしたは、なかなか こないねえ」
その言葉に、私は何も返すことができなかった。
彼の小さな背中に、どれだけの寂しさが詰まっていたのか、ようやく理解できた瞬間だった。
ふと見ると、隣の部屋から様子を覗いていたばあばも、静かに涙を流していた。
話は、妹が突然入院した日まで遡る。
「ままが びょうきだから、おとまりさせてね」
甥っ子は小さなリュックを背負い、私たちの家のドアをくぐった。
「いつも通りに過ごしていれば、きっと大丈夫」――家族全員がそう信じ、彼の前では明るく振る舞っていた。
だが、子どもは大人が思うよりずっと繊細に周囲を感じ取っていたのだ。
知られていなかったのは、甥っ子の「大丈夫」が、本当は大きな我慢の上に成り立っていたこと。
「おねえちゃん……あしたは、なかなか こないねえ」という一言に、ようやく私たちは気付かされた。
奇跡のような再会の日、あふれるほどの愛情を求めて駆け寄る小さな背中。
その強さといじらしさは、今も私の胸の奥に、あたたかく残っている。
感動する話:涙が止まらなかった、甥っ子が見せた小さな強さの理由
涙が止まらなかった、甥っ子が見せた小さな強さの理由
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