深夜の仙台ホテルで起きた不思議な出会い

仕事のため仙台を訪れた夜、私たちは皆で安ホテルの一室に集まり、ささやかにお酒を楽しんでいました。

そんな折、部屋の電話が鳴り、フロントから「神藤」という女性の名前を告げられました。
私はその名前に心当たりがなく、少し戸惑いながらも一人でエレベーターに乗ることにしました。

エレベーターに乗り込むと、背後に何か得体の知れない気配を感じました。
エレベーターを降りて振り返ると、赤いマニキュアの爪が印象的な白い腕が、まるでドアに吸い込まれるように消えていくのを目撃してしまったのです。

「あれは、人の手ではない……」そう思わずにはいられませんでした。

嫌な汗を感じながらフロントへ向かうと、フロント係の方も困惑した様子でした。
確かに電話を受けたものの、その内容をどうしても思い出せないのだそうです。

私は恐縮しているフロント係を宥めて、部屋へ戻ることにしました。

部屋に戻ると、仲間たちはすでに眠っていました。
私だけはまだ眠れず、冷蔵庫からビールを取り出してひと息ついていると、突然ドアをノックする音が聞こえました。

チェーンロックをかけたままドアをそっと開けましたが、そこには誰の姿もありません。
椅子に戻ると、窓の外を何か大きなものが落ちていくような気がしました。

「酔っているのだろうか？」と自分を疑い、念のため窓を開けて下を覗きましたが、何も見えませんでした。

その後、再びドアがノックされ、今度はドアを開けずにのぞき窓（ドアスコープ）から外を確認しましたが、やはり誰もいません。

ふと足元に目をやると、ドアと床の隙間から赤いマニキュアを塗った指が、まるで床を引っかくように動いているのが見えたのです。

「ガリガリ……」と音が響き、私は思わず後ずさりし、バランスを崩して転倒し、そのまま気を失ってしまいました。

翌朝、ホテルは飛び降り自殺の噂で騒然としていました。
警察がまだ到着していない現場には人だかりができ、悲鳴や嗚咽があちこちから聞こえてきます。

少し離れた場所から現場を見てみると、地面には直視するのがつらい状態の女性が横たわっていました。

なぜか私は無意識のうちに、その女性の指先に目を奪われます。

赤いマニキュア……。

それは偶然ではなかったようです。

後に聞いた話ですが、彼女の右手だけはどうしても見つからなかったとのことでした。