二人の母を思う瞬間

俺の母親は俺が5歳の時、癌で亡くなった。
それから2年間、父と2歳年上の姉と三人で暮らしていた。

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小学1年生のある日曜日、父が俺と姉に向かって―
「今から二人に会って欲しい人がいる」と言った。

父が連れてきたのは、父より少し若いくらいで、優しそうな顔の女性だった。
俺は子供ながらに、父がその女性と再婚するつもりだと何となく感じた。

姉はすぐにその人と打ち解けて楽しそうに話していたが、俺は人見知りでうまく話せなかった。

その人が帰った後、父が夕食の時に―
「父さん、あの人と結婚してもいいかな？」と言った。

正直、あまり良い気分ではなかったが、姉も喜んでいたし、父の幸せを考えると何も言えず、俺も喜んでいるふりをした。

それから、俺の家族は四人家族になった。

というより、四人家族に戻った。

俺は相変わらず新しいお母さんに懐くことができなかった。

ある休日の前夜、父が―
「明日はみんなで動物園に行こう」と言った。

俺は動物園なんてほとんど行ったことがなかったから、本当に嬉しかった。

翌朝、動物園に行けるのが嬉しくて、いつもより早起きした。
すると、父がリビングで薬を探していて、聞くと姉が熱を出したらしい。

そこで父は家に残り姉の看病をすることになり、俺とお母さんの二人で動物園に行くことになった。

動物園に着いてもなんとなく気まずい雰囲気で、言葉数も少なく、心から楽しめなかった。

昼になり、ベンチでお母さんが作ってきた弁当を食べることにした。

俺はおにぎりを一つ手に取って口に運んだ。

すると、元気だった頃の母が家族でピクニックに行った時に作ってくれたおにぎりを思い出した。

水気を吸って柔らかくなった海苔、ほどよい塩味…。
懐かしい気持ちと共に本当の母を思い出し、涙がボロボロ出てきた。

母が戸惑っていたので泣くのをやめようと思っても涙が止まらなかった。

その時初めて、その人に母親を感じた。

それから母さんと動物園を回りながら、今まで話せなかった色々なことを話した。

本当に楽しかったし、嬉しかった。

そんな母も、あれから22年経った今年の2月に病気で亡くなった。

俺はあの時食べたおにぎりの味を忘れない。

二人の母のお陰で、今日も俺は元気に生きている。