感動する話:四人家族に戻る日――おにぎりの記憶と、二人の母の物語

四人家族に戻る日――おにぎりの記憶と、二人の母の物語

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○自宅・リビング(夜)
(SE:時計の音が静かに響く。
薄暗い部屋の中、少年が静かに椅子に座っている)

N:俺の母親は、俺が五歳の時に癌で亡くなった。

(幼い「タクミ」(7・内向的)が、母の遺影を見つめている。
父「マサト」(40・穏やか)、姉「ユリ」(9・明るい)が静かに寄り添う)

N:それから二年間、父と姉と三人で暮らしてきた。

(画面暗転)

○自宅・リビング(朝)

(タクミとユリがテーブルで朝食をとっている。
父マサトが少し緊張した面持ちで二人の前に立つ)

マサト:(ゆっくりと、子供たちを見つめて)
「今から…二人に会ってほしい人がいるんだ」

(タクミ、スプーンを止めて父を見上げる。
ユリは目を輝かせる)

○自宅・玄関(昼)

(SE:ドアが開く音。
マサトが、優しそうな女性「ミサキ」(37・穏やか)を連れて入ってくる)

マサト:「こちら、ミサキさんだ」

ミサキ:(優しく微笑んで)
「こんにちは」

(ユリ、すぐにミサキに駆け寄る)

ユリ:「ミサキさん、こんにちは!」
(無邪気に話しかける)

(タクミは少し後ろで戸惑いながら立っている)

N:子供ながらに、父がこの人と再婚するつもりだと感じた。

(タクミ、そっと目を伏せる)

○自宅・ダイニング(夜)

(夕食を囲む四人。
食卓に静かな空気が流れる)

マサト:(真剣な表情で)
「父さん、あの人と――結婚してもいいかな?」

(ユリは嬉しそうに頷く。
タクミはフォークを握りしめて俯く)

(間)

タクミ:(小さく、無理に笑って)
「うん、いいと思う…」

N:本当はあまり良い気分じゃなかった。
でも、姉も喜んでいるし、父の幸せを考えると、何も言えなかった。

○自宅・リビング(数日後)

(新しい家族写真が壁に飾られる。
タクミはミサキと距離を取って座っている)

N:それから、俺たちは四人家族に戻った。
でも、俺は新しいお母さんに、なかなか懐けなかった。

○自宅・ダイニング(夜・休日の前日)

マサト:「明日、みんなで動物園に行こうか」

(ユリが歓声を上げる。
タクミは驚いた顔で父を見る)

タクミ:「本当に?」

マサト:「もちろんさ」

(タクミ、嬉しさを隠しきれず、そっと頷く)

○自宅・タクミの部屋(翌朝・早朝)

(SE:目覚ましの音。
タクミ、飛び起きる)

N:動物園なんて、ほとんど行ったことがなかった。
だから、本当に嬉しかった。

○自宅・リビング(同・朝)

(父が薬を探している。
タクミが近づく)

タクミ:「どうしたの?」

マサト:「ユリが熱を出してしまってな…」

(タクミ、不安げに父を見つめる)

マサト:「今日は俺がユリの看病をするから、タクミはミサキさんと二人で行ってきてくれ」

(間)

タクミ:(戸惑いの表情)
「…うん」

○動物園・入り口(午前)

(ミサキとタクミ、チケットを手に並ぶ。
二人の間にぎこちない空気)

N:動物園に着いても、なんとなく気まずくて、言葉が出なかった。

(キリンの前、ミサキがタクミに話しかけようとするが、タクミは俯いたまま)

○動物園・ベンチ(昼)

(ミサキが手作り弁当を広げる。
タクミは黙っておにぎりを手に取る)

(タクミ、おにぎりを口に運ぶ。
その瞬間、ふと遠くを見つめる)

N:元気だった頃の母と行ったピクニック。

(回想・公園、幼いタクミと母が笑顔でおにぎりを頬張る)

N:水気を吸って柔らかくなった海苔、ほどよい塩味。
懐かしい気持ちと共に、本当の母を思い出した。

(タクミ、涙をこらえきれず、ボロボロと泣き出す)

ミサキ:(戸惑いながらも、そっとハンカチを差し出す)
「どうしたの…?大丈夫?」

タクミ:(声を震わせて)
「…お母さんのおにぎり、思い出した」

(ミサキ、そっとタクミの肩に手を置く)

N:その時初めて、俺はこの人に母親を感じた。

○動物園・園内(午後)

(タクミとミサキ、並んで歩きながら会話を交わす。
タクミは少しずつ笑顔を見せる)

タクミ:「あのね、僕…実は動物はちょっと苦手だったんだ」

ミサキ:(微笑んで)
「そうだったの?でも、今日は楽しんでくれてる?」

タクミ:「うん…今日は、楽しい」
(照れくさそうに目をそらす)

N:あの日、初めて本当の気持ちを話せた。
嬉しかったし、心から楽しかった。

○自宅・リビング(22年後・夜)

(成人したタクミ(29・穏やか)が、仏壇の前でおにぎりを作っている。
写真にはミサキの遺影)

N:あれから22年。
今年の二月、母も病気で亡くなった。

(タクミ、おにぎりをそっと仏壇に供える。
静かに目を閉じる)

N:俺は、あの日食べたおにぎりの味を忘れない。
二人の母のおかげで、今日も俺は元気に生きている。

(BGM:切ない曲調に変わる)

(タクミ、仏壇の前で優しく微笑む)

(フェードアウト)
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