不思議な話:みかんの缶詰と生姜雑炊――君が遺した夜の記憶

みかんの缶詰と生姜雑炊――君が遺した夜の記憶

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○自宅・寝室(夜)
(部屋には薄暗い灯り。
布団に横になる主人公・タケシ(35・やつれ気味、優しい目)。
隣に座る妻・ユキ(32・小柄で穏やかな雰囲気)。


N:ようやく、笑って話せるようになった。
今日は俺の――亡くなった嫁さんの話をしよう。

タケシ:(毛布にくるまり、弱々しい声で)
「ユキ……。
みかんの缶詰、食べたいな……」

ユキ:(優しく微笑んで)
「うん。
すぐ買ってくるね」
(そっとタケシの額に手を当てる)(立ち上がり、玄関の方へ歩く)

○自宅・玄関(続き)
(ユキ、コートを羽織り、振り返って)

ユキ:
「すぐ戻るから、ちゃんと寝ててよ?」

タケシ:
「うん……」

(ユキ、微笑みながら出ていく。
ドアが静かに閉まる)
SE:ドアが閉まる音

○自宅・寝室(夜・しばらく後)
(タケシ、目を覚ます。
うっすらと外からサイレンの音が聞こえる)
SE:救急車のサイレン(遠くから近づいて)

タケシ:(ぼんやりしながら)(むくりと起き上がる)
「救急車……?」

(ふらつきながらトイレへ向かう)

○自宅・キッチン(同時)
(タケシ、ふと台所の方を見る。
ユキの後ろ姿が見える)

タケシ:(驚いて)
「あれ、ユキ? いつ帰ってきたの?」
(返事がない。
タケシ、一歩近づく)
「みかん、どこ?」

(ユキは黙ったまま、冷蔵庫の前に立つ)(タケシ、眠気から深く考えずそのまま寝室に戻る)

○自宅・寝室(再び)
(布団に潜り込むタケシ)(しばらくして携帯が鳴る)
SE:携帯の着信音

タケシ:(スマホを手に取り、画面を見る)
「……ユキ?」

(画面には『ユキ』の名前)(躊躇いながら通話ボタンを押す)

○自宅・寝室/病院(電話越し・夜)
(電話の向こう、無機質な女性の声)

病院スタッフ:
「もしもし、病院の者ですが……この携帯の持ち主が交通事故に遭い、現在意識不明です」

タケシ:(凍りつく)(言葉が出ない)
「……え、え? 何言ってるんですか……」

病院スタッフ:
「ご家族の方ですか? 至急、病院までお越しください」

(タケシ、震える手でスマホを握りしめる)

タケシ:(心の声)
(目を見開き、混乱しながら)
「……ユキが事故? そんなはずない……だって、家にいるんだから……」

○自宅・各部屋(夜)
(タケシ、家中を探し回る。
ユキの姿はどこにもない)(テーブルの上、コート掛け、玄関――全て空っぽ)

N:でも――家のどこを探しても、ユキはいなかった。
病院の人が言っていた服装も、特徴も、ユキと一致していた。

○病院・廊下(夜)
(タケシ、青ざめた顔で廊下を歩く。
スタッフに案内される)
SE:足音、心臓の鼓動

N:まさかと思いながら、病院に向かった。
だが――

○病院・遺体安置室(夜)
(静寂。
タケシ、ユキの遺体に向き合う)(膝が崩れ、床に座り込む)

タケシ:(涙をこらえて)
「……うそ、だろ……」

(BGM:切ない曲調に変わる)

N:俺が最後にユキを見たと思っていた時、ユキはもう――事故に遭っていた。
あの救急車の音は、ユキを運んでいたんだ。

○自宅・リビング(翌朝)
(タケシ、点滴のあとが残る手でふらふらと帰宅)(義父母と一緒に)
(ふと、キッチンの鍋に目をやる)

タケシ:(鍋のふたを開ける)(驚いて)
「……雑炊?」

(鍋の中には卵とネギと生姜の雑炊。
湯気は消え、冷めている)

タケシ:(涙をこらえて、微笑む)
「……ユキの味だ」

N:俺が生姜苦手なのに、風邪ひくと必ず食べさせてくれた雑炊――前の日にはなかったはずなのに、なぜか、そこにあった。

○自宅・リビング(窓の外を見つめて)
(タケシ、静かに鍋に手を合わせる)(義母がそっと寄り添う)(長い沈黙)

N:それから――俺はみかんの缶詰が食べられなくなり、生姜だけは、好きになった。

(BGM:静かにフェードアウト)
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