不思議な話:「冷めた雑炊と消えた嫁――みかん缶詰が食べられない理由」

「冷めた雑炊と消えた嫁――みかん缶詰が食べられない理由」

🔄 オチから に変換して表示中
冷めた雑炊が鍋の中に残っていた。
卵とネギと生姜がたっぷり入った、あの嫁の味――しかし、その雑炊を作るはずの嫁は、もうこの世にいなかった。

その雑炊に気づいたのは、嫁が事故で亡くなったと知らされ、病院で身元を確認し、一日入院して家に戻ったときだった。
家を出るときには何もなかった鍋の中に、ひんやりとした雑炊がぽつんと残っていたのだ。

話は少しさかのぼる。
風邪で寝込んでいた俺は、なぜか無性にみかんの缶詰が食べたくなった。
わがままだとは思いながらも、嫁に頼んでしまった。
その日、嫁は俺のため、近所のコンビニに出かけていった。

その直後、俺は寝室で横になっていた。
外から救急車のサイレンが聞こえたが、特に気にせずトイレに立つと、台所に嫁の背中が見えた。
「いつ帰ってきたの?」と声をかけても返事はない。
「みかんどこ?」と尋ねても、沈黙。
嫁の機嫌が悪いのだと思い、俺はまた寝室に戻った。

だが1時間ほど経った頃、嫁の携帯から俺の携帯に着信が入った。
かけてきたのは病院の人。
「この携帯の持ち主が事故に遭い、意識不明です」。
俺には理解できなかった。
だってさっきまで嫁は家にいたはずなのに。
しかし、家中を探しても嫁はいない。
病院の人間が言う服装や特徴も、嫁と一致していた。

病院へ急いで向かうと、嫁は既に亡くなっていた。
俺が最後に家で見たと思っていた嫁は、実はもうその時この世にはいなかったのだ。
トイレに立った時に見たのは、いったい何だったのか。

すべての始まりは、俺が発した「みかんの缶詰食べたい」という一言だった。
あの日以来、俺は缶詰のみかんが食べられなくなり、逆に嫁の雑炊にたっぷり入っていた生姜が好きになった。

あの冷めた雑炊は、嫁が最後に俺のために残してくれたものだったのだろう。
読了
スワイプして関連記事へ
0%
ホーム
更新順
ランダム
変換
音読
リスト
保存
続きを読む

コメント

まだコメントがありません。最初のコメントを投稿してみませんか?

記事要約(300文字)

ダミー1にテキストを変換しています...

0%
変換中