不思議な話:「みかん」と「雑炊」に込められた、優しさと別れの記憶

「みかん」と「雑炊」に込められた、優しさと別れの記憶

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■【起】〜病室で思い出す、優しい日常〜
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ようやく笑い話にできるようになったので、今日は俺の亡くなった嫁さんの話を書いてみようと思う。

俺たち夫婦の日常は、ごく普通のもので、時には俺が風邪で寝込んでしまうこともあった。
そんなとき、嫁はいつも俺の世話を焼いてくれた。

あの日も、俺は熱で寝込んでいた。
ふと思いつきで「みかんの缶詰が食べたい」と我儘を言ってしまった。
それが、すべての始まりだった。

■【承】〜静かな違和感と、見えないすれ違い〜
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嫁はすぐに近くのコンビニへみかんの缶詰を買いに行ってくれた。
しかし、その帰り道、無謀な運転の車に跳ねられてしまった。

そのことを知らない俺は、布団の中でぼんやりしていた。
救急車のサイレンが遠くに聞こえた気がするが、特に気にも留めなかった。
トイレに立ったとき、台所にいる嫁の背中が見えた。
「いつ帰ってきたの?」と声をかけても、嫁は無言だった。

「みかんどこ〜?」と聞いたが返事はなく、俺は嫁の機嫌が悪いのだと思い、また寝室に戻った。
それが、俺と嫁の最後のすれ違いだった。

■【転】〜突きつけられた現実、そして奇跡のような痕跡〜
───────

1時間ほど経ったころ、嫁の携帯から俺の携帯に着信があった。
電話の相手は病院の人で、「この携帯の持ち主が事故に遭い、意識不明です」と告げられた。

最初は状況が理解できず、嫁が携帯を落として、拾った人が事故に遭ったのかと思った。
しかし家中を探しても嫁はいない。
病院の人が話した服装や特徴が、まさに嫁そのものだった。

急いで病院に駆けつけると、嫁はすでに亡くなっていた。
俺が台所で見かけたとき、嫁はもうこの世にはいなかったのだ。
そのとき聞こえた救急車の音も、まさに嫁を運んでいたものだった。

警察や病院での手続きが終わり、俺は高熱で倒れてしまい、一日入院することになった。
嫁の両親とともに一旦家に戻ると、そこには家を出るときにはなかったはずの雑炊が、冷めたまま鍋に残されていた。
卵とネギと生姜がたっぷり入った、俺が風邪をひくと必ず嫁が作ってくれる雑炊だった。

■【結】〜缶詰みかんの代わりに残ったもの〜
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俺はその日以来、缶詰みかんを食べられなくなった。
しかし、不思議と生姜だけは好きになった。

嫁と過ごした日々、そして最後に残された雑炊の味は、今も俺の心に温かく、そして切なく残っている。
読了
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