見知らぬ老人と静かなオフィス──誰も知らなかった“社長”の顔

○オフィス・執務フロア（昼）

（静かなオフィス。
社員たちがパソコンに向かい、キーボードの音だけが響いている）

SE：ドアが静かに開く

（ふらりと一人の老人が入ってくる）

N：その日、事務所には誰も見覚えのない老人が現れた。

○同・入り口付近

老人（70代・小柄、入れ歯が合っていない様子）

老人：（フガフガしながら、少し微笑んで）「こんにちは」

（社員たち、一瞬だけ顔を上げるがすぐに視線を戻す）

○同・社員デスクの間

（老人、当然のように年配社員の机の横に腰を下ろす）

SE：椅子のきしむ音

年配社員（50代・落ち着いた雰囲気）

年配社員：（驚きもせず、笑顔で）「どうも、お疲れさまです」

（老人と年配社員、親しげに話し始める）

○同・オフィス全景

（他の社員たち、気にはしつつもそれぞれの作業に戻る）

N：誰もが「誰だ？」と心の中で思いながらも、誰も口には出さなかった。

○同・自分のデスク

主人公（30歳・新入社員）

主人公：（心の声）（困惑しつつも、内心で）会社のOBか何かだろう…仕事に戻ろう。

○同・アルバイト女性のデスク

アルバイト女性（20代・おっとり）

（老人がそっと彼女の肩を軽く叩く）

老人：（やや強い口調で）「お茶！」

アルバイト女性：（一瞬驚きつつ、反射的に）は、はい…！

（慌てて立ち上がる）

○同・主人公のデスク

主人公：（小声で同僚に）「あの人、誰なんですか？」

同僚：（ひそひそ声で）「さあ…多分、偉い人じゃない？」

（間）

○後日・会議室

（主人公、年配社員と雑談中）

年配社員：（お茶を飲みながら）「ああ、あの人？本社の社長だよ。
」

主人公：（目を丸くして）「えっ…あの、ご老人が…？」

（間）

年配社員：（苦笑しながら）「まあ、うちの社員は社長にもあんまり関心ないからね。
」

N：あの日、初めて知った“社長”の顔。

N：そして、誰も気に留めない、その不思議な距離感──

（カメラ、主人公の表情にゆっくりズームイン）

（BGM：静かなピアノの旋律が流れ始める）

（フェードアウト）