○自宅・玄関(昼)
N:僕の父の実家は、車で二時間弱。
農家の香りと土の温もりが好きだった。
高校生になってバイクを手に入れてから、夏や冬の休みにひとりでよく通ったあの家。
けれど、高三の春を最後に、僕はもう十年以上、そこを訪れていない。
○父の実家・庭先(春休み・昼)
(バイクを止める主人公・ユウタ(17・素朴な青年))
SE:バイクのエンジン音が静まる
ユウタ:(深呼吸して)やっぱり、ここは落ち着くな…
(縁側で日向ぼっこする祖父・タケシ(70代・農家の頑固者)、祖母・ハル(70代・優しい))
ハル:(微笑みながら)ユウタ、よく来たね。
寒くなかったかい?
ユウタ:(照れくさそうに)うん、大丈夫。
バイクだとすぐだからさ。
○父の実家・広縁(昼)
(ユウタ、陽だまりでくつろぐ)
SE:静かな田舎の空気、鳥のさえずり
N:その時だった。
不思議な音が聞こえてきた。
SE:「ぽぽ、ぽぽっぽ、ぽ、ぽっ…」という奇妙な声
ユウタ:(眉をひそめて)…ん?
(ユウタ、庭の生垣に目を向ける)
(生垣の上に白い帽子がスッと横切る)
ユウタ:(息を呑む)…誰だ?
(生垣の切れ目から、異様に背の高い白いワンピース姿の女が現れる。
帽子を被り、静かに移動していく)
ユウタ:(茫然と見つめる)
N:生垣は二メートルはある。
その上から、女は静かに姿を見せ、そして消えた。
SE:奇妙な声も、やがて消える
○父の実家・居間(昼)
(ユウタ、お茶を飲みながら祖父母と談笑)
ユウタ:(苦笑しながら)さっき、庭で大きな女の人見たよ。
男が女装してたのかなあ…
ハル:(相槌を打つ)へぇ〜
ユウタ:垣根から頭が出ててさ。
帽子かぶってて、変な声で「ぽぽぽ」って…
(祖父・タケシ、動きを止める)
(ハルも固まる)
(間)
タケシ:(厳しい表情で)いつ見た?どこで見た?垣根よりどのくらい高かった?
ユウタ:(戸惑いながら)え、えっと…さっき、広縁で…
(タケシ、急に立ち上がり、廊下の電話へ向かう)
SE:電話のダイヤル音
(引き戸が閉まり、会話は聞こえない)
(ハル、手を震わせながらお茶を差し出す)
ユウタ:(心配そうに)ばあちゃん、大丈夫?
ハル:(声を震わせて)…大丈夫、じいちゃんが何とかするから
○父の実家・広間(夕方)
(タケシが電話を終え戻る)
タケシ:(真剣な表情で)今日は泊まっていけ。
いや、もう帰すわけにはいかなくなった。
ユウタ:(不安そうに)え…僕、何か悪いことしたの?
タケシ:(短く)ばあさん、後は頼む。
俺はKさんを迎えに行ってくる。
SE:軽トラのエンジン音
○父の実家・居間(夕方)
(祖母・ハルとユウタ、静かに向かい合う)
ハル:(声を震わせて)…ユウタ、お前、八尺様に魅入られてしまったようだよ。
じいちゃんが何とかしてくれるから、何も心配しなくていい…
(ユウタ、戸惑いと恐怖で固まる)
N:八尺様――この村に伝わる、背の高い女の怪異。
見た者は、数日のうちに命を奪われる。
○父の実家・玄関(夜)
(タケシが老婆・K(80代・霊媒師風)を伴って帰宅)
K:(厳かな声で)…えらいことになったのう。
今はこれを持ってなさい。
(ユウタにお札を手渡す)
○父の実家・二階への階段(夜)
(タケシとKが二階へ、何やら準備を始める)
(ハル、ユウタにずっと寄り添い、不安を隠せない)
○父の実家・二階・閉ざされた部屋(夜)
(部屋の窓すべてが新聞紙とお札で目張りされ、四隅に盛り塩。
簡素な仏像とおまる二つ)
タケシ:(真剣な声で)もうすぐ日が暮れる。
いいか、明日朝の七時までは絶対にここから出るな。
俺もばあさんも、お前を呼ぶことはない。
七時になったら出てこい。
家には連絡しておく。
K:(優しく)お札を肌身離さずな。
何かあったら仏様の前でお願いしなさい。
ユウタ:(小さく頷く)
(BGM:不安げな旋律)
○二階・閉ざされた部屋(深夜)
(ユウタ、布団にくるまって震える)
SE:テレビの深夜番組が流れる
ユウタ:(心の声)…怖い。
早く朝になってくれ…
(時計を確認、午前一時すぎ)
SE:コツコツ…窓ガラスを軽く叩く音
ユウタ:(息を殺して)(お茶を口に運ぶも、手が震える)
(SE:テレビ音量を上げる)
(間)
(外からタケシの声がする)
タケシ(外):おーい、大丈夫か。
怖けりゃ無理せんでいいぞ。
(ユウタ、ドアに近づくも、立ち止まる)
タケシ(外):どうした、こっちに来てもええぞ。
(ユウタ、全身に鳥肌)
(盛り塩が黒く変色していることに気付く)
ユウタ:(仏像の前に座り込む)(お札を握りしめて)…助けてください…
SE:「ぽぽっぽ、ぽ、ぽぽ…」
SE:窓ガラスがトントン、トントンと鳴る
(ユウタ、祈り続ける)
(BGM:緊張が高まる)
○同・閉ざされた部屋(夜明け)
SE:テレビから朝のニュース
N:気付けば、朝が来ていた。
盛り塩はさらに黒く変色している。
ユウタ:(恐る恐るドアを開ける)
(ハルとKが、涙ぐみながら迎える)
ハル:(涙をこらえて)よかった…よかった…
○父の実家・庭(朝)
(親父・マサト(40代・無口)、タケシ、K、男たちがバンを用意)
タケシ:(厳しい声で)早く車に乗れ
(ユウタ、バンの中列の真ん中に座る。
Kは助手席、男たちがユウタを囲む)
五十代の男:(低い声で)…これからは目を閉じて下を向いていろ。
俺たちには何も見えんが、お前には見えてしまうだろうからな。
いいと言うまで目を開けるなよ。
(車列がゆっくりと出発。
先頭はタケシの軽トラ、真ん中がバン、最後尾がマサトの乗用車)
(BGM:不気味な旋律)
K:(念仏を唱え始める)
SE:「ぽっぽぽ、ぽ、ぽっ、ぽぽぽ…」またあの声
(ユウタ、目を閉じて下を向いているが、薄目を開けてしまう)
(白いワンピースが車窓の外を並走する。
女が頭を下げ、車内を覗き込もうとする)
ユウタ:(無意識に)ヒッ…
五十代の男:(見るな!と鋭く叱る)
SE:コツ、コツ、コツ…ガラスを叩く音
(Kの念仏が強まる)
(やがて、声と音がピタリと止む)
K:(安堵して)…うまく抜けた
男たち:(小声で)よかったなあ…
(車が止まり、ユウタは親父の車へ移される)
K:(お札を確認し)もう大丈夫だと思うが、念のためしばらくはこれを持っていなさい
(新しいお札を手渡す)
○自宅・リビング(数日後)
(ユウタとマサト)
マサト:(静かに)…八尺様のことは俺も知ってる。
子どもの頃、友達が一人魅入られて命を落とした。
お前にはもう近づいてほしくない。
N:あのバンの男たちは、みな遠い親族。
血縁の力で、八尺様の目を誤魔化そうとしたのだ。
○自宅・電話(数年後)
SE:電話の着信音
ハル(電話・声のみ):…八尺様を封じていた地蔵様が、誰かに壊されてしまった。
それも、お前の家に通じる道のものがな…
N:祖父は二年前に亡くなり、僕は葬式にも出られなかった。
今も自分に言い聞かせている、これは迷信だと――でも「あの声」が聞こえてきたら、きっとまた、僕は…
SE:「ぽぽぽ…」という、あの不気味な音が遠くで響く
(BGM:静かにフェードアウト)
(画面暗転)
怖い話:「八尺様の影―封印された村の記憶」
「八尺様の影―封印された村の記憶」
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