怖い話:「八尺様」の夜――あの声が終わらぬ理由

「八尺様」の夜――あの声が終わらぬ理由

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――「八尺様を封じていた地蔵様が壊された。
それも、お前の家に通じる道のやつがな」

ばあちゃんからの電話に背筋が凍った。
じいちゃんはもう亡くなっていて、すでに十年以上もあの家へは近づいていない。
それでも、「ぽぽぽ…」という声が、今にもどこかから聞こえてきそうな気がした。


実は、あの一夜以来、八尺様の恐怖は決して過去のものになっていなかった。
なぜなら、あの時助かったのは、ただ多くの人の手と、幾重もの封じがあったからに過ぎない。
地蔵が壊れた今、それらの保護はもうないのだ。


――話は十数年前に遡る。


あの日、私は九人の男たちに囲まれ、ワンボックスの中で目を閉じ、必死にお札を握りしめていた。
Kさんの念仏、車外を歩く「白いワンピース」、ガラスを叩く「コツ、コツ」という音…。
目を一瞬でも開けば、それが全て見えてしまう。
恐怖の車列は、じいちゃんの軽トラ、私たちのバン、親父の乗用車と続き、ゆっくりと村境を抜けていった。


「見るな」

隣の男が叫ぶ。
私は再び目をつぶり、祈るしかなかった。
やがて音も声も消え、Kさんが「うまく抜けた」と安堵の声を上げた。
黒くなったお札を手渡され、私はようやく家に帰ることができた。


――その朝のことだ。


盛り塩は真っ黒に変色し、窓を叩く音も声も消えていた。
私は恐る恐るドアを開け、涙ぐむばあちゃんとKさんに迎えられた。
親父も来て、じいちゃんの指示で、車に乗せられた。
村の男たち全員が血縁の者で、八尺様の目を誤魔化すために、八方囲むようにしていたと知った。
助かったのは、そうした“仕組み”があったからだ。


時計の針をさらに戻そう。


あの夜、私は二階の部屋に閉じ込められた。
窓には新聞紙とお札、四隅には盛り塩、仏像の前で怯えながら過ごした。
夜中、窓を叩く音と「ぽぽっぽ、ぽ、ぽぽ…」というあの声。
私を呼ぶじいちゃんの声まで聞こえた――だが、あれはじいちゃんではないと直感した。
盛り塩は黒く変色し、私は仏像にしがみつき、ただ祈るしかなかった。


さらに時間を遡る。


春休み、私はバイクでじいちゃんの家に行った。
陽だまりの広縁でくつろいでいると、「ぽぽぽ…」という妙な声と、二メートルの生垣の上に現れた白いワンピース姿の女。
異様な背の高さに驚き、じいちゃんとばあちゃんに話すと、二人の顔色が変わった。


「八尺様に魅入られたのかもしれない」

ばあちゃんは震えながらそう言い、じいちゃんは慌ててKさんという老婆を呼びに行った。
Kさんからお札を受け取り、私は一晩部屋に閉じ込められることになった。


――すべての始まりは、親父の実家に久しぶりに訪れた春の日だった。


農家ののどかな雰囲気が好きで、よく一人で泊まりに行っていた。
だが、あの日を最後に、私は実家には二度と近づけなくなった。
八尺様は、村に伝わる“封じられたもの”。
見てしまった者は、数日のうちに取り殺される。
だから、私はあの夜、血縁の者たちに囲まれて脱出したのだ。


だが、封じの仕組みが壊された今、あの声が再び私を呼ぶのではないか。
迷信だと自分に言い聞かせても、「ぽぽぽ…」という声が、今も耳の奥でこだましている。


――恐怖は、終わっていなかったのだ。
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