春が終わる日～裏切りのメール、私が選んだ別れ道～

○自宅・リビング（夜）

（BGM：静かにピアノが流れ始める）

N：結婚して五年。
私は、ずっと、静かに耐えていた。

（ソファに座る主人公・美咲（35・落ち着いた雰囲気）、膝にノートパソコン。
窓の外は夜のしじま）

美咲：（目を伏せて、淡々と）
「最初は、ただ家族になりたかっただけなのに…」

（スマホの画面に、給与明細。
ため息）

美咲：（苦笑しながら）
「私の方が稼ぎがいいのが、そんなに嫌だった？」

（画面暗転）

○回想・職場（昼）

（美咲、上司に頭を下げる）

上司：
「正社員からパートに、ほんとにいいのか？」

美咲：（小さく頷く）
「はい。
家庭を優先したいので…」

（BGM：不穏なストリングスが混じる）

○自宅・キッチン（夕方）

（美咲、エプロン姿で洗い物。
背後から姑（65・厳格）が来て、きつい声）

姑：
「孫の顔、まだ見せないの？」

美咲：（無理に笑って）
「…すみません、努力はしてるんですが」

（画面暗転）

N：旅行も、外食も、夢のまま。

N：そんな日々が五年続いた――

○自宅・寝室（夜）

（美咲、ベッドでスマホを握りしめ、画面を睨む）

美咲：（息を殺して）（心の声）
「最近、夫の様子が…おかしい」

（SE：スマホの通知音）

○自宅・リビング（深夜）

（美咲、PCの前。
auのメール保存サービスを操作）

SE：キーボードを打つ音

（画面に浮かぶ、夫と女性の親密なメール。
ハートマークが並ぶ）

美咲：（凍りつく）（唇を噛む）
「…やっぱり」

（画面暗転）

○病院・廊下（昼）

（舅（70・痩せた体）がベッドで横になる。
美咲、書類を持ち廊下を歩く）

N：その頃、舅が癌と診断され、余命半年と告げられた。

○自宅・玄関（早朝）

（美咲、子供の手を引きながら、鞄を持つ）

美咲：（目を伏せて）
「家事、育児、パート、病院通い…私に全部押しつけて…」

（夫（36・優しげだが影がある）、スーツ姿で出てくる）

夫：
「出張、行ってくる」

美咲：（冷たく一瞥して）
「…気をつけて」

（夫、玄関を出る。
美咲、すぐにスマホを取り出し画面を見る）

（SE：メール着信音）

○回想・ホテル前・夕方

（美咲、帽子を深くかぶり、遠巻きにホテルの入り口を見張る。
夫と女性（幼なじみ・35）が手を繋いで入っていく。
美咲、カメラのシャッターを切る）

SE：シャッター音

美咲：（声を震わせて）（心の声）
「証拠は…これで十分」

○弁護士事務所（昼）

（美咲、弁護士（50・頼りがいある）と向かい合う。
机上にメールのコピーと写真）

弁護士：
「十分すぎる証拠ですね。
段取りは私がやります」

美咲：（小さく頷いて）（涙をこらえて）
「お願いします」

（画面暗転）

○自宅・寝室（夜）

（美咲、机に手紙と封筒を並べる。
証拠一式を封入）

美咲：（手を止めて、深呼吸）
「これで、終わらせる」

○自宅・玄関（夜明け）

（姑と夫を起こし、車に乗せる。
美咲、子どもと家を出る）

N：舅が危篤になったその夜、私は子どもと実家に逃げた。

○美咲の実家・和室（朝）

（美咲、実母に抱きしめられる。
子どもが眠っている）

美咲：（涙をこらえて）
「もう、戻らない」

○親戚宅・リビング（昼）

（親戚一同が封筒を手に困惑）

N：証拠と手紙を、夫、姑、親戚、浮気相手、その実家にすべて送った。

○夫の実家・応接間（昼）

（夫、姑、浮気相手、浮気相手の親、美咲、美咲の両親、弁護士が座る。
緊張感）

SE：時計の音

（間）

美咲：（冷静に、証拠のメールを読み上げる）
「“旅行楽しかったね、また一緒に行こうね”
…これ、あなたたちのやり取りですよね？」

夫：（顔色が変わる）（汗をぬぐう）
「…それは、その…」

姑：（声を荒げて）
「うちの家にだけ借金を返せって、どういうこと！」

美咲：（静かに、冷ややかに）
「できないなら、裁判で。
土地も家も担保に入ってるの、知ってます」

（弁護士がこらえきれず笑い出す）

弁護士：
「…まさか、証拠メールから全部引用されるとは」

（美咲の両親は和やかに微笑む。
夫と浮気相手はうつむく）

○数ヶ月後・駅前（昼）

（美咲、晴れやかな表情。
夫は髪が薄くなり、浮気相手は明らかに太っている。
姑はどこか落ち着かない様子）

美咲：（明るく、笑顔で）
「これで、運命の人と新しい人生を歩めるね！
…金銭苦なんて、忍び恋の切なさに比べたら平気だよね。
おめでとう！」

（弁護士、隣で大笑い）

SE：軽快な音楽

○美咲の実家・庭（夕方）

（美咲、子どもと手をつないで歩く）

N：すべてが終わった。
新しい春が、きっと来る。

（BGM：優しいピアノ）

（美咲、空を見上げて、優しく微笑む）

（フェードアウト）