「親に捨てられた少年」を救った伯父　23歳の土木作業員が示した“家族”の形

■リード文
両親に親権を押し付け合われた6歳の少年が、23歳の伯父に引き取られた――。
本紙は、取材を通じて「血のつながりだけが家族ではない」と語る当事者の半生と、支え続けた伯父の実像に迫った。
親との別離、突然の新生活、そして人生の節目ごとに寄り添った伯父との日々。
取材のなかで浮かび上がったのは、社会が見落としがちな“もう一つの家族像”だった。


■大見出し
「親権を押し付け合う両親」幼児期に訪れた転機

■親に望まれず生まれた少年
取材対象者・Aさん（仮名、30代男性）によると、両親が離婚したのは、Aさんが6歳、母が24歳、父が26歳の時だった。
Aさんは「自分は望まれて生まれた子ではなかった」と振り返る。
両親は離婚後、それぞれに新たなパートナーを作り、Aさんの親権を押し付け合う状況となっていた。


■伯父の決断「この子に愛を教える」
そんな中、母の弟である伯父（以下、ごうさん、仮名）が家族会議で声を上げた。
「俺がこの子に愛を教える。
貴様らはどこへでも行け、二度とこの子の前に現れるな」。
Aさんは「大人の事情は分からなかったが、両親に捨てられる予感はあった」と当時の心境を語る。


■中見出し
「23歳の土木作業員」突然始まった二人暮らし

■新しい家族のかたち
ごうさんは当時23歳の独身で土木作業員だった。
ごうさんはAさんに「伯父さん」ではなく「ごうちゃん」と呼ばせた。
Aさんは「両親のいない自分に伯父さんと呼ばせるのは酷だと考えてくれたのだと思う」と明かす。


■日常の積み重ね
ごうさんは毎日、軽トラックで幼稚園まで迎えに来た。
買い物や食事を共にし、料理が下手でも一緒に笑った。
休日は近所の子供たちとキャッチボールやサッカーをして遊んだ。
「悪いことをすると叱られ、良いことをすると頭を撫でて褒められた」とAさんは語る。
その日々は、Aさんにとって「家族の温かさを感じた初めての経験」だったという。


■小見出し
「人生の節目を支えた」ごうさんの存在

■学校行事から成人まで
ごうさんはAさんの小学校の授業参観や遠足、高校のラグビー応援にも欠かさず参加した。
「似合わないスーツで授業参観に来てくれた」「夜なべして弁当も作ってくれた」とAさんは当時を振り返る。
また、高校卒業時には「やりたいことがあるなら心配するな」と専門学校への進学も後押しした。


■社会人となったAさん
初任給でAさんがごうさんにスーツを贈った際、ごうさんは「子供のようにはしゃいでいた」という。
Aさんの結婚式にも出席し、その後も家族のような関係は続いた。


■中見出し
「別れと新しい命」受け継がれる想い

■突然の別れ
ごうさんは勤務中に倒れ、入院。
手術後1カ月で亡くなった。
Aさんは「意識を失ったごうさんに思わず『父さん！』と叫んだ。
驚いたが涙が止まらなかった」と明かす。
亡くなる直前、ごうさんはAさんの頭を撫でてくれたという。
その温もりは今も忘れられない。


■次世代への継承
Aさんは後に結婚し、男児を授かった。
子には「ごうさん」から一字を贈った。
「抱っこしてほしかった」とAさんは語る。


■締め
「家族とは血のつながりだけではない」
Aさんは今もごうさんの命日に涙する。
「実の両親の顔は思い出せなくても、あなたは父であり母だった」と語るAさん。
専門家で家族心理学者の斉藤裕子氏は、「家族の定義は社会変化とともに多様化している。
血縁に頼らない関係性や養育者の存在がもたらす愛着体験は、子どもの人生に大きな影響を与える」と指摘する。


今後、家庭の多様性が社会で一層認められる中で、「家族とは何か」を問い直す必要がありそうだ。